桜井優子失踪事件【74】
【終1】
低い連続音が轟いて大地が震えた。
バイクに乗って尚聞こえる音量、ハンドルを取られる振動であり、尋常でない事象であると知れた。
「噴火と違うか!」
マスターが叫び、一旦止まり、後方を見上げる。
その視界が捉えたのは、照り返しで赤黒い雲の下に立ち上がる炎の柱であった。
炎の柱の周囲には、黒く見える細かいものが、まとわりつくようにくるくると舞い飛んでいる。
すなわち。
「火炎放射旋風……炎の竜巻」
理絵子はヘルメットを取り、振り仰いでそう言った。
大火炎の上昇気流が竜巻を生じさせたのであった。次いで紫電が疾り雷鳴が轟く。火山の噴煙で発雷する〝火山雷〟と同じメカニズムであると知る。
その炎と疾る紫電、轟音の彩なす様は、なるほど龍の復活と咆哮と呼ぶに相応しかった。
炎が収まり、代わりに白煙が濛々とする。それは炎が消えたらしいことを教えてくれた。ガスの源……つまりあの場所が水没した、と見たがどうであろうか。
「お前、りえぼーにイチャモン付けてたあの娘だよな」
桜井優子が不意に言った。
その、霊能合戦の様相を呈した事件の成り行きは彼女も全て把握している。
「ええ、はい。その」
敬語になるのは、その件で引け目があるのと、桜井優子が年齢ひとつ上になるから。
それは確かにそうだが、にしては随分大人びて感じると理絵子は思った。年齢以上の差が彼女と自分の間に出来た気がする。自分はまだまだ〝ねんね〟だと思い知らされる。
「気にするな。怒っちゃねーよ。照れ屋だから真っ正直にありがとうって言えねえタチなんだよ。……でもいいのか?お前自身誤解されまくりだろうが、自分みたいなのに手を出すと誤解がひどくなるぜ」
桜井優子の……〝照れ隠し〟。
すると。
「私も桜井さんの理解者になっていいですか?」
登与はヘルメットを取って訊いた。
「は?……お前アタマ大丈夫か?」
「変です。霊能者って要するにアタマ大丈夫じゃないですから」
「全くエスパーってのは……で?それって自分が答えなきゃなんねーのか?」
桜井優子は自らを指さして訊いた。
(つづく)
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