グッバイ・レッド・ブリック・ロード-101-
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船の甲板を足場のレベルに合わせる。念のため、船にはそのまま海岸へ降下待機してもらい、二人は足場へ飛び移った。
「ただいま」
遠くを向いた父親の後頭部に向かい、真由は言った。
父親は反応しない。
「親父ってば。おいこら」
レムリアは気付いた。
「お父様は、今、あなたのことで頭が一杯。思い浮かべているあなたの声だと思ってらっしゃる」
真由はレムリアを見ると、少し考え、小さく頷いた。
「お父さん」
父親は身体をびくりと震わせた。
「お父さんただいま。夜遊びごめんなさい」
その言葉に、父親は、ゆっくりと、顔を後ろに向けた。
「……真由?」
灯火に翳るやつれた顔。半信半疑の表情。
場所が場所ということもあろう。想像の真由か、現実なのか、未だ判然としないようである。
その目が傍らのレムリアに向いた。
「ああ、看護婦さん……」
目が見開かれた。現実だと合点が行ったようだ。
「すいません、帰りが遅くなりすぎました」
レムリアは言った。
「それは……しかしどうしてここへ。一体どこへ?」
その当然の疑問には、真由が答えた。
「ちょっと、彼女と勉強してきた」
「そうか」
「心配した?」
「それはな……まぁ看護婦さんと一緒だとは思っていたが」
「ごめんなさい」
真由は頭を下げた。
しかし父親は薄笑みを浮かべて。
「いいよ。オレにも経験があるからな。どうあれお前は今ここにいるんだ。なら、それでいい。お前さえいれば」
その言葉にレムリアはへぇと思った。経験……つまりプチ家出の過去が父親にもあるということだろう。根掘り葉掘りどこへ何しに?と訊かない辺り、当時の自身の心理を良く把握してらっしゃると見る。
行くアテとか目的が問題じゃないのだ。親に反発して家を出たい。ただそれだけ。そしてその衝動の背景は“ひとりの人間”としての独立心。思春期とはそういう時期。
(つづく)
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