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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-107-

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 真由に取り、麻子はもはや敵視の対象ではなく、単なる知り合い同等として包含されてしまったのだ。すなわち、真由の心理人格は、確実にあるステップ状の変化を見せた。
 流星の夜に。
 そして月曜の朝。
「はい、おにぎりです」
 レムリアは窯の炊き口にかじりついたままの父親の元へ、ラップに巻いた握り飯を持って行った。常滑焼の窯の形式には幾つかあるが、父親が借り受けている川俣師の窯は“両面焚倒焔式角窯(りょうめんだき・とうえんしきかくがま)”と呼ばれるもので、外見上は“かまぼこ型に積んだレンガに煙突”と表現すれば良いか。煙突の吸い口が床面近くにあるため、立ち上がった炎は、円弧を描く内縁部に沿って“降りて”行くように動き、その床面近い吸い口から煙突に入り、最終的に上方へ排出される、というルートを取る。結果として熱が窯全体に回るという工夫がなされている。西洋の技術を取り入れ、より進化させるという気鋭に富んでいた明治の産物である。
「おお、すまない」
 ラップを開いて握り飯を手渡すと、父親は煤けた軍手のまま、ラップの部分を掴み、かぶりついた。
 父親の説明によると、“ろくろ”で整形した茶器類が焼きあがるまで3日間を要す。リアルタイムで火加減をコントロールするため、当然、不眠不休。レムリアが最初出会った父親は、この繰り返しで極限まで疲労した状態だったわけだ。
「真由は?」
 咀嚼しながら父親は尋ねた。
「これまでの出来事を思い出せるだけ書き出してもらって……今は休んでます」
「そうか」
 薪の切れっ端を投入。ちなみに父親は今回、作り方自体はオリジナルに近い方法で行くという。オリジナルの常滑焼は釉薬を使わない。薪の灰が自然釉となって作品に溶着し、二つとない模様を描く。それに任せるという。
 
(つづく)

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