グッバイ・レッド・ブリック・ロード-108-
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「流れ星一つ一つは自然の産物であり、意図してそこに配したわけではない。なのに、多く流れた有様は、全体を眺めた姿は、幾何学的調和を感じさせる……」
父親はインスパイアされた内容を熱っぽく語ったが、あまりに専門用語が多すぎ、レムリアは良く覚えていない。横文字が幾つか出てきたので、数学の小難しい理論とのアナロジーを見出したのだ、と想像は付くが。
東京なら面白がって聞いたであろうか。
と、傍らで親子電話の子機がピロピロ鳴る。発信者はナンバー・ディスプレイによって真由の中学であると判る。
しかし、父親は電話を取ろうとしない。
登校拒絶のみならず、アクセス拒絶である。
「君の言った通り無視しているが」
父親もさすがに少し心配そうな面持ち。
「いいです。本当に心配ならここまで来い、ってことですよ」
レムリアは湯飲みのお茶を差し出しながら言った。電話を無視しろとした理由はこうだ。教員が真由に対するいじめに薄々感づいており、“もしや”と思っているなら、すっ飛んでくるであろうし、トラブルとすら考えていないなら、電話すなわち口先だけで片付けに掛かるに相違ない。最悪の場合は、電話に出ないことで何か勝手な判断を下し、電話は掛かって来なくなるだろう。さあどれだ、というわけである。
電話は10回ほどコールした後、切れた。
「これで何回目ですか?」
「5回目かな?。ありがとう。おいしかった」
レムリアはラップを受け取ってくしゃくしゃに丸めた。
「すまないね。手伝わせて。しかしフリースクールだっけ?行きたい時に行けばいい学校とは言ってもなぁ」
「お気になさらず。学校行けるだけ上等ですから」
「あ、姫子……さん」
言って立とうとするレムリアを、父親は呼び止めた。
(つづく)
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