グッバイ・レッド・ブリック・ロード-122-
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突き指一名。擦り傷出血一名。他は真由も含め、深刻な症状の者はいない。
そこへ誰が呼んだか、救急箱片手に走ってきた白衣の養護教諭に、それら軽傷者を託す。
一段落付いたと思った途端、肩が脈に合わせてズキズキと痛み出す。
「……君。君のその肩は」
用務員さんであろうか、救助に加わった作業着姿の男性が、レムリアの腕を見、これ以上ないと言うほど目を円くして言った。
スポーツなどで脱臼した経験のある人は、その状態であることは一目で判ろう。
「脱臼は治ります。だけど命は戻らない」
レムリアは言うと、男性に笑って見せた。
程なくサイレンの音が聞こえて来、バリケード代わりの車が動き、救急車が校庭へ到着。そしてそれは……学校の最も恐れていた事態……と言うべきか?遠巻きに近所の人々が覗き込む。車が動き、人々を再度目隠し。
救急車が止まって隊員が降り立つ。一人がハッチドアを開いてストレッチャー(台車付き寝台)を引っ張り出す間に状況を説明。
「ついでですいませんが私も肩を抜かしまして……」
「判りました」
救急隊員がレムリアの肩に触れ、携帯電話を開いてピポパ。
……こう書くと驚く方あるかも知れぬ。21世紀初頭現在、救急車を呼んだところで、現場到着時点では実は搬送先が定まっていないのだ。こうして状況を聞いてから都度電話して、受け入れてくれる病院を探し、出発するのである。日本の救急システムで最も前時代的な部分である。
電話の間に少女がストレッチャーで車内へ運び込まれ、レムリアと同様にバイタル・サイン・チェック。その間に養護教諭が救急車の備品から三角巾を取り出してレムリアの腕を吊ってくれた。
「あの……あたしも行くよ」
真由が言ってくれた。
(つづく)
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