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2010年12月 1日 (水)

グッバイ・レッド・ブリック・ロード-92-

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 真由は瞠目してレムリアを見つめた。
 まるで、初めて先生に褒められた、1年生の女の子のように。
 と、背後でドアが開かれる。風に揺れる花のように、ふわりと甲板へ上がって来たのは副長セレネ。
「私からもお礼を言わせてください。真由さん」
「お礼?」
 なぜ?真由の目は問うているが。
 セレネはニッコリと微笑んで。
「そうです。貴女のおかげであの母子は救われました」
「でも私は何も……ミルク一口すら。人身売買とかって言っても抱っこしただけ……」
 否定し、再び目に涙を浮かべる真由の前に、セレネはすっと跪いた。そして……悔しさのゆえであろう、ぎゅっと拳を握った真由の手を、両の繊手で取り、包んだ。
「それはレムリアが説明した通り。貴女がその腕に幼子を抱く以前の環境の問題です。それよりも……素晴らしかったのは貴女に抱かれた幼子は泣きやんだ」
「そう。そして母なる人は気を失った……判る?貴女に抱かれた我が子を見て安心したんだよ」
 レムリアはセレネの言葉に付け加えた。
 二人の言葉は、文明先行の国の住人である真由には少々、難解であったかも知れぬ。
 セレネは微笑みを絶やさず真由を見た。
「貴女が見た通り、あのキャンプの人々は飢餓にあり、それがゆえに“命”に関わる事に関して極めて鋭敏、遺伝子に刻まれた生存本能が全てに優先している状態です。そんな鋭敏な心理が、貴女に対して安心し、貴女に任せたのです。母子が得た安らぎは、無防備なまでのその姿は、貴女が見せてくれた勇気と、守ろうとする意志がもたらした結果。貴女には本能に響く勇気と優しさがあるのですよ」
「ほ、本能……ですか」
 褒め言葉として最上位に属するであろう。真由はキツネにつままれたような目でセレネを見、次いでレムリアを見た。
 
(つづく)

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