グッバイ・レッド・ブリック・ロード-97-
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真由は、セレネを見たまま、羽化したばかりの蝶の翅のように、まぶたを一回、ゆっくりと閉じ、開いた。
「自信をお持ちなさいな」
セレネは真由の頬に触れ、姉が妹に言うように、軽く言った。
「いじめたいと思うくらい、貴女の“安心させる能力”は強いということなんですよ」
真由の瞳孔が目に見えて開くのがレムリアにも判った。
自分の瞳も同じように動いただろうと実はレムリアも感じた。そういう言い方は思いつかなかった。
セレネが続ける。
「今の貴女が、わたくしはとても愛おしく感じられます。成長した貴女が、どんなに素敵な女性になるか、目に見えるからです。貴女は、貴女のままでいい」
「そう……でしょうか」
真由は小さく言った。
「本当に……私は、今の私でいいんでしょうか」
それらは彼女が初めて口にした、自分の現状に対する肯定。
でも、言葉と裏腹に、顔は再びうつむき加減。
「ええ」
セレネはまず笑みを作って。
「保証しますよ。わたくしは、これまでもいろんな女性が女の子からママになるまでを見ています。このレムリアと一緒に、貴女がレディになって行く姿が見られるかと思うと、心が躍ります」
真由は、自分の頬に触れているセレネの手に、自分の手をそっと重ねた。
その言葉信じていいの?と、問うが如く。
セレネは、真由の下向き顔に自らの顔を近づけ。
そして。
「命に関わる活動に、お世辞や冗談で、加われなど申すものでしょうか」
途端、真由はバネが弾けるような動きでセレネを見上げた。
震えわななく口元。セレネは、大きな蝶が音もなく翅を閉じるような動きで、星雲の広がりを持つローブの袖で真由を包み、抱き寄せた。
それはまるで母……レムリアはそう感じ、ハッと気付いた。
彼女が、母親不在状態であることを今さらのように思い出す。
(つづく)
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