« 予告その他 | トップページ | グッバイ・レッド・ブリック・ロード-102- »

桜井優子失踪事件【76】

【終3】
 
 祖母殿がへたりこみ、お地蔵様に手を合わせ、涙ぐむ。
 コロは祖父殿の手を振り切って桜井優子に駆けて来、飛びついてペロペロ。
「ひょっとしてと思って良枝さんに優子ちゃんの制服持ってきてもらってね。コロに追わせたんだよ。そしたらここへ。しばらく歩き回ってたら、このパンを見つけてね。これは理絵子様ここへ入られたなと」
 祖父殿がパンの入った袋を片手に説明する。先ほどお地蔵様へのお礼にと置いていったものだ。
 桜井優子はコロに押し倒されている。
「コロどけ……何も出来ない……」
 事態の説明は男達が地元警察に対応し、理絵子はあきれ顔の父親と対面。
「ったく、探偵ごっこはマンガの世界だけにしてくれ。小林少年に勝てても明智小五郎はいないんだぜ。活動力のありすぎる娘も考え物だ」
「ごめんなさい」
 理絵子が頭を下げたら、その声に反応して桜井優子の方が神妙になった。
「いや、それを真っ先に言わなくちゃならないのは自分です」
 立ち上がって下唇を噛む。セーラー服が肉球の足跡だらけ。
 ……隣の市のセーラーだ。理絵子は代わりにコロを撫でながら気付いた。学級委員の代表同士の交流会みたいなのがあって、そこで見た。
 桜井優子と出会ったのはこの2年生昇級当初であって、それ以前の彼女は知らぬ。知っていることは唯一、〝2度目の2年生〟……留年であること、そして、今日知った彼女の秘密の部分。
 恐らく、1年生当時に着ていた制服で元彼に……が、妥当な見方だろう。
「そうね」
 うつむく桜井優子の前に、母君が進み出、一言そう言い。
 頬を平手打ち。
 軽い。あくまで叩いた音が出る、程度。ただ、その割にその音はその場の誰をもハッとさせ、黙らせる効果を有した。
 頬に自らの手のひらを押し当て、桜井優子は呆然と母君を見返す。
 ひっぱたかれる、という行為が、彼女にとって初めての事象であると容易に知れた。
「親が一々行動に干渉せずとも、自分で責任が取れる年齢だとは思います。でも、他人様に迷惑を掛けてはだめ。それは責任ある行動とは言わない。一人で何でもできると思うのも、単なる思い上がり。まして相手は札付き。岩村さんや黒野さんが〝あれ〟からあなたを引きはがしたのは慧眼だし、それによってあなたは守られたのです。判ってますか?」
「はい、ごめんなさい……お母さん。皆さん」
 
(つづく)

|

« 予告その他 | トップページ | グッバイ・レッド・ブリック・ロード-102- »

小説」カテゴリの記事

理絵子のスケッチ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 桜井優子失踪事件【76】:

« 予告その他 | トップページ | グッバイ・レッド・ブリック・ロード-102- »