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【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-1-

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 天気が悪くても毎日来るよ、と〝彼女〟は教えてくれました。
〈このままじゃ無くなってしまう〉
 言葉に起こせばそうなりますが、〝彼女〟が人語を話したわけではありません。
 ポプラの葉の裏で雨宿りしているミツバチですから。彼女はそういう〝思い〟を紡ぎ、私はそれを意識で直接受け取った。すなわち、いわゆるテレパシー。
 そして私も、そのポプラの枝の上に腰掛けています。白い服着た手のひらサイズの小柄な女が座っていて、頭の上にはミツバチが、という図です。勿論私も人間ではありません。
 眼下は公園です。住宅街の真ん中で、シロツメクサが一面に生えています。その花を、座り込んで一心に摘んでいる幼い女の子が一人。
 晴天下なら微笑ましいお花摘み、かも知れません。でも今日は冷たい雨。なのに女の子は、ピンクの傘を開いたまま傍らに放り出し、自身はまるで濡れるに任せてという状況。おさげの髪がべったりと濡れて先から雫が垂れています。止めさせないと風邪を引きますが。
〈妖精さんは不便だ。何故人間に見つかったらいけない?〉
 ミツバチの彼女は言って、身体に付いた水滴を脚で払い落としました。
 妖精……彼の言った通り、私は人間と同じ姿の人間ではない存在です。背中にはクサカゲロウのそれによく似た薄い緑の翅があります。ただ、ギリシャ神話のニンフの血を引くせいか、翅は身体の中にしまえるし、人間サイズになることもできるのですが。
「それは、人間さんが私たちの存在を認めてないから」
 私は答えました。妖精は昆虫や動物の相談相手。人間さんの認識に出しゃばる権限はありません。そして今日はこのミツバチから相談。
 この近所の花が、野花のみならず人家庭先のものも含めて、次々持ち出される。
 女の子の動きが止まりました。
 草むらを見ていた顔を上げます。視線の先には通学用の黄色いカサの男の子。
「キモい奴」
 男の子は女の子を罵ると、走り去って行きました。
 女の子はその背中を見送ると、
「いいもん」
 ふて腐れるようにひとりごち、花摘み作業に戻りました。
 テレパシーを駆使する前に判ったこと。女の子には信念と呼べるような考えがあるけど、男の子を始めとする他の子どもには理解されていないこと。
 テレパシーを駆使するためには……もう少し近づかないとなりません。
 花を守り、ミツバチたちを安心させたい。
 それに。
 
(つづく)

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