グッバイ・レッド・ブリック・ロード-134-
13
立ち話をしている二人の方へ向かい、看護師に案内され廊下を歩いてくる、年老いた女性が一名。
和服姿であり、その背と腰は湾曲し、やつれを感じる顔には深い皺。すっかり白くなった髪は結い上げられ、簪が一本。老婆……と、古典的な表現を使うなら記しても良いかも知れぬ。ただ、失礼な響きを含むので本稿では用いない。
女性は二人に対して軽い会釈を見せると、由香の病室へ入ろうとした。
今、この病室には由香だけ。
「あの失礼ですが……」
坂本教諭が呼び止め、由香の関係者なのかと尋ねる。
「はい。保護者で祖母の日長静子(ひながしずこ)でございます」
「ばあちゃん!?」
女性の言に由香の驚いた声。ちなみに、由香とその祖母の姓は異なる。
「由香!大丈夫だったのかい!?」
由香の祖母は、表情に狼狽を湛えながら病室へ入った。
「……落ちたと聞いたから……教室から身を乗り出す子がありますか」
祖母は涙ながらに由香の枕元へ向かい、己が孫娘に腕を伸ばした。
その言動に、事実と異なる内容に、疑念を抱いたのは廊下の二人。
異なっているその訳は。
「学校は……隠すつもりですよ」
レムリアは、坂本教諭にだけ聞こえる声で言った。
「であれば、先生にお任せすれば、欺くも何も真っ先に先生に圧力が掛かってくる。だから……なんです。ごめんなさい」
「あなたの言いたいことは判った。日本人じゃない相原さん」
坂本教諭は腕組みし、レムリアの目を見ず答えた。……ちなみに、教諭は教諭で、レムリアが“日本人ではない”と言いながら、コテコテの日本名を持っていることに秘密の存在を感じているようだ。言わないなら問う気もないが、しかし、といったところであろう。だが、申し訳ないがそこを軽々に言うことは出来ない。
(つづく)
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