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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-171-

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「ええ」
 坂本は当然とばかりに即答した。
 母親、が、ハッと息を飲み、その顔面の筋肉がびくり、と震えた。
 しかし言葉はない。
 即答に即答で応じられないのは、坂本の答えが不意のものであった証左。
「証拠があれば信じていただけますか?」
 坂本が重ねて問う。
「それは……」
 母親の目が坂本の瞳を映しながら宙を泳ぐ。
 急転直下弱気な反応と言える。それは母親、の裡に
 
 証拠などない。
 従って証拠を要求すれば押し切ることが出来る。
 教員から謝罪の言葉を引き出すことが出来る。
 
 といった読みがあり、対し予想外の結果が返って来た、ことは明らかと言えよう。
「ではあなたは自分の娘さんを信じていないわけですね」
 坂本はすかさず追求の言葉で懐へ迫る。
 母親、は向き直り。
「信じてます!信じてますからこうして……」
「いいえ、それ以前に自分の子どもが何をしているかキチンと把握できていません。できていれば、あなたの今の言動は生まれない」
「失敬なっ!」
 坂本のその発言は、確かに“失礼”と受け取られて当然の文言ではある。対し母親は敏感に反応し、それこそ“即答”した。
 それは後ろめたい人間が核心を突かれ、ムキになって言い返す有様と酷似した。従いこの母親、は“自己正当の塊”と仮定してもまず外れてはいないと考えられる。
 坂本は口調を緩め、
「確かに失礼かも知れません。でもこれは確認させて下さい。私どもは私どもで調査致しました。お母様におかれましても娘さんに心当たりの有無をお尋ねになられたでしょうか?」
「心当たり?」
 母親、がキョトンとなる。言うまでもなくこれも予想外だったのである。なお、坂本の問いの意図は改めて記すまでもあるまい。
 果たして程なく母親、の顔にみるみる紅潮が出現し、こめかみにマンガさながら青筋が立った。それは怒りのボルテージの急上昇を意味した。
 
(つづく)

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