グッバイ・レッド・ブリック・ロード-173-
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その手は年齢……母親の経験歴に比して肌荒れもなく美麗である。
「失敬にも程があるっ!責任者を!校長を出しなさい校長を!」
怒りの余り紡ぎ出すのに時間が掛かったか、母親、は口角の泡と共に怒鳴った。
「お断りします。わたくしが全権を委任されているからです」
「全権!?冗談じゃない。学校の責任者と話をさせなさい。あなたとはこれ以上一切何も話さない」
「校長はわたくしの判断報告を最終正当として全て把握しております。従い、校長の認識はわたくしと同一です。わたくしはあなたの娘さんが現状の調査状況からでは加害者であると断を下した。校長が保有する情報も同一です。従いまして……」
「うるさいっ!」
母親、は立ち上がった。校長室へ押しかけるつもりであることは容易に想像が付く。
しかし坂本は微動だにしない。
「校長は“坂本に任せてある”と言うだけですよ?お母様もそういうご認識の元にわたくしをご指名になったのでは?」
母親、は何も言わず、応接室の扉を開いた。
と、そこに立つ紺の背広姿。
頭髪が薄くなり、広がった額に皺を数本刻んだ初老の男。
「校長の喜久井(きくい)です。10時40分とのお約束だったので」
表情一つ変えず、校長喜久井は皮肉を言った。
しかし母親、は意に介す余裕もないのか。
「校長先生!この判らず屋を即刻クビに……」
「出来かねます。それに誰が担当しても結局同一かと存じます。この坂本の情報を受け継ぐか、新たに調査し直すか。後者は避けたいのですよ。何度も同じことを訊く、というのは、警察が犯人に対してよくやること、と、生徒達もテレビ等で知ってますからね。それに最終判断者はわたくしです。わたくしの現状判断は坂本がお話しした通りです」
(つづく)
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