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【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-4-

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 つっかえながら、引っ掛かりながら、3度同じ部分を読む声が聞こえ、ろうそくが消えて静かになりました。
 7時半には就寝、ということのようです。
 でも……かおるちゃんが寝入ったと判って程なく。
 玄関のドアが再び開き、……全然違う女性に見えましたが、それは派手な化粧で〝夜の蝶〟となったお母さん。昼は総菜コーナー、そして夜は、ということでしょう。自転車を使わず、歩き去ったのを見届けて、私は胸元のペンダントのチェーンをたぐり、ぶら下がっている青い石を手にします。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」
 呪文、瞬間移動。
 家の中に入ります。
 しんと静かで、そして冷え切った部屋の中で、小さな布団がこんもりとしています。
 かおるちゃんが中に潜り込んで丸くなって寝ているのです。
 枕元には折りたたみ式の携帯型ゲーム……いえ違います。を、模して作られた紙工作。
 〝画面〟に相当する部分には犬の絵があって〝コンティニュー〟と書いてあります。
 触れると、彼女が〝ゲーム機〟に込めた思いが伝わってきます。この超感覚はその筋の用語でサイコメトリと呼ばれるものです。落とし物から落とし主を探ったり。
 ゲーム機、それは彼女を孤立させ、一方で彼女が時間を過ごすためのもの。
 彼女は持っていないから、遊び相手とされない。だから、ショッピングセンターのデモ機で遊ぶ。
 繰り返し、繰り返し。
 並んで、終わって、また並んで。
 そうして覚えた〝コンティニュー〟。
 閉店するまでそうして遊んで、
 ジョンと一緒に母を待ち、母が出かけた後の夜をジョンと過ごす。
 布団に動きがありました。
 私は異変を知りました。
「ジョン、寒いよジョン」
 うなされるような声。
 凍死しかけて愛犬に助けられたという話は時折聞きます。
 彼女はそれが毎晩だった。
 そして今夕、彼女は雨に濡れた。
「かおるちゃん!?」
 私はもう反射的に動いていました。身体を伸ばして布団をはぐると、胎児の姿でがたがた震える小さな身体。
 
(つづく)

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