グッバイ・レッド・ブリック・ロード-180-
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再度の通過アナウンス。近づく電車の転動音がレールを通じてシャーと聞こえ始め、程なく、常滑方、緩やかにカーブした勾配線路を駆け下りてくる、まばゆい白銀の前照灯。
銀色車体に種別は“急行”とある。その速度は優に100キロを越すか。
踏切の向こうに編成先頭が姿を現す。
ジャージ姿の身体が揺らぐ。その身は、ホームに敷かれた黄色い点字ブロックよりも、線路側。
その状況は、誰が見ても、少女の“目的”を察したと思われる。電車から電子合成による無機質な警笛。
ジャージの少女が線路へ近づき、
ホームから線路へ倒れ込む。
の、一瞬。
再度の警笛が長々と鳴り、非常制動の作動に伴うバシャーッという空気の吐き出し音がし、パンタグラフと架線の間に青白のスパークが弾け飛び、白昼尚明るい放電アークが白く尾を引く。
及び同時に、ジャージの少女の背後から伸びて来る、カーディガンを着た細い腕があった。
細い腕とその先の手が、少女のジャージの袖口を掴み、次いで腕をたぐり寄せ、強引なほどの勢いで少女を引き戻す。細い手首では、鈴なりのミサンガが揺れる。
減速しつつ行き過ぎて行く電車。何事かとホームへ目を向ける車内の乗客。最後尾から顔を出す車掌。
ジャージの少女は細い腕を振り払い前へ行こうとし、適わぬと知り、己れを引き戻した細腕の持ち主に目を向ける。
その目が見開かれる。見開かれた瞳に映った、カーディガンの主。
だから、かどうかは不明であるが、少女は再度掴まれた腕を引き抜こうとする。振り払おうとする。
しかし、自分より遥かに小柄なカーディガンの腕から逃れることが出来ない。
電車が減速しつつ目の前を行き過ぎる。キイキイとライニング音を立てながらプラットホームを遥かに超過し、踏切を行き過ぎ、“急行”の字が読めぬほど離れてようやく止まる。何十トンもの金属箱が100キロ6連。そう簡単に止まれるわけもない。
(つづく)
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