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総武快速passing love ~馬喰町~

~馬喰町~
 
錦糸町を出た総武快速は、両国の手前から地下に潜り、トンネルの中の馬喰町へ。
馬喰とは牛馬の世話をし、或いは売買も行う獣医兼ブローカーのような存在とか。
この駅の名は江戸時代のこの職に因む。そんなこと調べるほど印象が強いのは、難読の駅名と、
君のせい。
その日、君は僕の肩にちょこんと頭を乗せかけて居眠り。
警戒されてないのか男として意識されてないのか。
よく手入れされた長い髪と黒縁眼鏡、リンゴマークのタブレットPCで日経新聞。イヤでも目立つ。稲毛から乗ってきて、馬喰町で降りて行く。
いつもは僕の前に立っているけど、その日は僕の隣が錦糸町で立ったから、君が座った。
そして一駅の間に眠りに落ち、立つ気配無し。
声を掛けても答えないので、肩をツンツンしたら、君はシャボン玉が弾けるように身を起こし、膝の上の平板パソコンとバッグの中身をぶちまけた。
化粧道具に社員証にpasmoの定期券。ああ、ここで浅草線か。乗り換え大変だなぁ。
君は拾い集めて僕にぺこりと頭を下げ、ホームへ突進。
ちょっと待った社員証。
「おーい!」
地下のホームへ出て叫んだが、人々は振り返ったが、その中に肝心の君の姿はなかった。
困るだろうに。
浅草線か。僕は走り出す。恐らく追いつけると確信がある。
総武快速馬喰町から地下鉄都営浅草線東日本橋駅への乗り換えは、案内図に従って地下を行けば都営新宿線馬喰横山駅を通っての長距離。地図に書けば「コ」の字の形。
地上に出ればショートカット。
僕は乗り換えの人波に逆行し、国鉄時代最も深いと言われた地下5階のホームから地上へ駆け上がる。2番出口、すぐの細い一方通行を走り、少し複雑な交差点を抜けると、そこは浅草線B4入り口。
そして。
ホームの上に君がいた。
びっくりして僕を見た。
僕が忘れ物を見せると、君は笑顔で、タブレットを起動させ、文字を入力。
 
〝ありがとう〟
 
僕らの会話は、画面だけのパソで筆談。
 
←錦糸町新日本橋→
 

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