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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-182-

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 徹底的に否定しまくる、では逆にダメなのだ。ここまで来ると。それこそ、ジャン=バルジャンを追い込む行為に等しい。
「あんたに死ぬ価値はない」
 レムリアはまず言った。我ながら感情のない、氷のような声だ。真意に反したことを口にするので、どうしても無機質になる。
 ジャージの少女はびくりと身体を震わせる。折しもびょうと音を立てて晩秋の風が耳のそばを抜ける。彼女の身震いは、薄着の故か、それとも違うか。
「死ぬという現象に対する冒涜だ。君のしていることは」
 慎重に言葉を選ぶ。真意と、理想論との妥協点。それでも否定成分の多い文言になるのは否めない。対向側、空港行き列車通過のアナウンスがあり、またぞろ飛び出して行きやしないかと危惧が生じる。ここでこの手を離してしまえば、自分より大柄なこの少女を再度捕まえるのは不可能であろう。
 その危惧が掴む力を強めたか。
「痛い……」
 少女が口にした。
「痛いかい。やめて欲しいかい」
 少女が再び身体を震わせ、目を見開く。既視感を抱いた人間の反応である。最もレムリアにしてみれば当然の反応だ。なぜならそれは少女自身が真由に使った言葉だからだ。これに続くのが、前記、やめて欲しければ……である。
「電車に飛び込もうとする人間が痛がるとは滑稽だ」
 レムリアは言った。死のうとするくせに痛みを嫌がる。それは死への無理解の裏返し。そして痛いと言うが『離せ』とは言わない。それら言動には“幼い”を通り越し、原理的・本能的な反射の存在を垣間見る。
 まるで乳飲み子の世界観……心理を慮る相手がいて、先回りして反応してもらえる……だ。それが洞察だと判り、ああ、と納得する。この娘の環境では、“得たい反応”は自動的に得られるため、“得たい反応を引き出すためには、どうすれば良いか?”という思考形態が出来上がっていない。
 
(つづく)

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