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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-184-

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 ただ、どれであれ、現在彼女を支配しているのは、恐怖。そしてそれに起因する悪寒。怯え。
 もう逃げまい。レムリアは断じ、背後の自販機でミネラルウオーターを買う。その怯えと身体的不快感が、少女の気力を奪っている。
 ペットボトルの蓋を開けて差し出す。
「口の中をゆすぎなさい。スッキリしたら少し飲みなさい」
 少女は、普通のその年齢の少女であれば、“人前に出られない”ような顔のまま、レムリアを振り仰いだ。
 仰ぎ見たその目は、少し驚きを持っているのか、円く見開かれている。そしてその円い目は、そうする理由を尋ねているように、レムリアには思われた。
「胃液で食道が荒れる」
 ハンカチで口の周りを拭ってやり、至極理論的な回答を提示する。この少女にとってはその方が理解できるからだと後から合点が行った。
 この少女は介抱される……優しさを受ける経験に乏しいのだ。母親は学校に文句付けるくらいだから溺愛先回り、上げ膳据え膳。他方……同級の子ども達がこんな暴力的な子どもに近づくとは思わない。
 だから、何かしてもらうと“何で?”になるし、優しさを曲解することもあっただろう。……そして、そうした反応、一般常識との乖離が、恐らくは更に周囲を彼女から遠ざける。言うまでもなくジャン=バルジャンそのもの。
 
 親による上げ膳据え膳は“そうしてもらって当たり前”という意識を子どもの裡に形成こそすれ、“愛情表現なのだ”という認識には至らない。だから、上げ膳据え膳が満たされない環境ではフラストレーションとなり暴力に訴えるし、暴力的な子どもは愛されない。結果出来上がるのは“愛しているのに”愛情に飢えた子ども。
 
 “甘えさせる”ことと、“甘やかす”ことは違う。
 
(つづく)

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