グッバイ・レッド・ブリック・ロード-186-
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“介抱した”自分は庇護者であり、親と同様、何かしてくれる存在、そういう認識なのであろうか。
いや違う。
これは物心付いて初めて叱られた幼女の反応。
何でそう言われたのか理解できない幼女の“きょとん”。
嘔吐した……自分の行動は彼女の理解を越えていたのみならず、驚愕ショックと言っていいレベルであり、人格退行を起こしたのだ。
本来通過すべき階段の、昇っていないステップまで。
否、退行は不正確な表現だ。これは彼女の“素のまま”だ。
幼女のまま、親に反抗する機会すら恐らく与えられず、10年以上、放置。
レムリアは少女の手を取り、脈を診るように手首を握った。今この少女に必要なのは、その失われた10年を取り戻すことだ。加害者認識や死の概念はその次である。
手を開く。手首に巻かれた状態のミサンガ。
「前言を訂正する。君は死ぬには早すぎる」
少女は己れの手首のミサンガと、レムリアの顔を、交互に見た。
チャイムがあり列車到着のアナウンス。その30分に一度の普通電車。
今このホームに、乗客とおぼしき姿は、跨線橋の階段下に少し。
「君は通りすがりの幼い子を蹴飛ばすような酷い子だとみんなから聞いた。でも私はそれを責める気はない。君は知らないからだ。だから仕方がないんだ。いつか君が、それを“酷いことしたんだ”と理解したら、友達になろう。それが理解できて初めて、君はこの星に生まれ、育ったと言える。だから、君にはまだ死ぬ権利がない。
親元を、この地を離れなさい。誰にも後ろ指刺されない地へ行きなさい。この電車で、君を迎えに来る人がいます。その人に全て話してあります。少しの間、病院の手伝いをしながら、ひとりで暮らしてごらんなさい。札束を幾ら積んでも、何もかも至れり尽くせりでも、身に付かない物を、君はまず、その心に育てる必要がある。
今の親と共にいることは、君を破滅させる。君を誰からも愛されない人間にしてしまう。君の親は、親である以前に、人間教育をやり直さなくてはならない。これは、いつか笑顔の君と出会える日までの、遠い約束」
(つづく)
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