グッバイ・レッド・ブリック・ロード-204-
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“死”の予兆。聴衆は静まりかえる。
「私に任せて、って思わず言いました」
少しの安堵と、しかし緊張。
「この真由に看護師さん呼びに行ってもらって、私は男の子と一緒に、そのおじいさんの病室へ行きました。
おじいさんはベッドの脇に倒れていました。仰向けに大の字になって、すごいいびきを掻いていました。
このいびきは脳の機能がマヒして、舌ベロがノドの奥の方へダランと落っこちて起きるんです。だから、まず、両の膝を立てて、その膝を傾けて、体を横に向けました。それから首が真っ直ぐになるように、お見舞い用の椅子にあったクッションを二つ折りにして頭の下に入れました。
すぐにお医者様が見えました。おじいさんは担架で運ばれて行きました。
少し経って、一命は取り留めた、とお医者様がおっしゃいました。私の処置が良かったからだとおっしゃってくださいました。でも、予断は許さない状態でした。
そのおじいさんには身寄りがありませんでした。たったひとりで、その病院に入院していたのです。だから、その男の子が、いつも一緒にいてあげてたんです。
おじいちゃん死んじゃうの?ぼくイヤだ、ってその男の子はわんわん泣きました。私は、その男の子と、おじいさんと、一緒にいてあげたいって、看護師さんに頼みました。本当は、他の病院とも約束してあるので、その病院はその日だけしか居られないんです。
そしたら、真由が、他の病院は私が回るから任せなって、言ってくれました。
看護師さんからは、ずっと声を掛けてあげて、楽しかったことを聞かせてあげて、って、アドバイスをもらいました。
私たちは一晩中おじいさんのそばにいました。男の子がおじいさんの手を握って、一緒に桜を見に行ったことや、川沿いの草むらでバッタを捕ったこと、そんな話をしました。私も、大丈夫だから、絶対に治るからって、ずっと、言い続けました。
そして、翌朝、おじいさんは目を開けました。
私たちの方をゆっくり向いて、小さい声で、こう言ってくれました。
聞こえたよって。また、バッタ取りに行こうって。
だから、戻って来ただろって。
嬉しくなりました。また来てって言われたから、また来るって答えました。……それから、約束の印に、これを始めたんです」
(つづく)
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