グッバイ・レッド・ブリック・ロード-211-
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「してもいい?」
“マキロン”と脱脂綿を、両の手に持って見せる。
夢子は小刻みに震えている。耐えるように唇を噛みしめ、目に涙を浮かべ。
最早その心ボロボロになっているのだとレムリアは理解する。自暴自棄の今まさに一歩手前。だがしかし、彼女が最後の一歩踏み出さない、ナイフで行動に出ない理由。……それは自分に対し周囲が恐怖パニックを起こさないこと、及び、
想像もしなかった、優しい反応。
大声は多分、攻撃を逡巡する自分の心への鼓舞。
そして、言葉だけの“やさしさ”への疑心暗鬼。すなわち、口先だけならもうたくさん。……まぁ、好きと言われるタイプではあるまい。想像は付く。
なら行動で示すまでである。レムリアは立ち上がる。歩き出し、脱脂綿にマキロンを吹きながらステージより飛び降りる。
「ちょっとしみるかも」
爆発保安距離、という概念。
え……
降って沸いた概念にレムリアが足を止めたその瞬間。
ナイフを持ち、だらりと下がった状態だった、少女の右手が動く。
肩を軸に腕全体が動き出し、刃が宙に銀色の弧を描き、
ナイフが振り上げられ顔に向かってくる。
突き当たるような、硬く鈍い音が聞こえた。
次いで、ボトボトと音を立ててしたたり落ちるのは
……透明な消毒液。レムリアの左手のマキロン。
そのプラスティックのボトルに、底の方から深々と食い込み、引き裂き、硬い蓋の部分で停止している刃。
レムリアは、閃いたナイフを、のけぞりながら、とっさにマキロンのボトルで受けたのだ。
もし立ち止まらなければ、もしその概念……超感覚の警告がなければ、刃は首筋に達していよう。そこでようやく一部の生徒は状況を認識したか、さすがに小さな悲鳴が数名から上がる。
しかし。それがパニックに変化する時間は与えない。
(つづく)
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