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2011年3月 4日 (金)

【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-5-

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 ひどい熱です。しかし見回しても他の毛布や布団の類は見当たりません。衣服はどこにしまってあるのでしょう。
 病院?保護者でもないのに?訊かれたらどう答える。それ以前にお金は?
 救急車……通信手段がない。
 とりあえず抱きかかえ、背中の翅を回して包みますが、不十分です。
 仕方ありません。
「リクラ・ラクラ・シャングリラ」
 私は石を手にして声にしました。
 家の中から風景が切り替わります。
 小さな流れがキラキラ光るクローバーの草原。
 太陽が輝き、小鳥たちが舞い、
 私の足もとへ降りてきます。
〈エウリディケさん〉
〈エウリディケさんその子だあれ?〉
 それは私の名前。こと座の神話で知られるニンフと同じ。
「人間の女の子……病気なんだ」
 私はかおるちゃんを抱きかかえ、流れを跨いで、バンガロー風の小屋の戸を開けます。
 フェアリーランド……天国の片隅にある私たち妖精たちの国。
 私の家。
 ドアを開いてダイニング。円形のテーブルがあって奥手にキッチン。右手に食器棚があって、その向こう側が寝室です。
 小鳥たちは私の後ろからちょんちょん歩いて付いて来ます。心配してくれているのです。ちなみに、地上では絶滅した種類。
「ミツバチに蜜を届けてもらうよう頼んでくれないかな」
 私はかおるちゃんをベッドに寝かせながら鳥たちに頼み、寝室の窓を開けました。
〈判りましたすぐに〉
〈わーい妖精さんに頼まれてお使い〉
 人間さんにはピーチク鳴き合いながら飛び去っていったように感じられたでしょう。
 窓を閉め、その間に着替えです。汗に濡れた衣服の代わりに私の白装束……神話の女神様の肖像画でおなじみトガ(toga)を一枚、ベッド下から出して彼女に掛けます。後は毛布。陽が入って室温が高いのでこれで充分。
 屋外へ出て薬草の採集。のどに貼って炎症を抑え、呼吸を楽にするもの。そして額に乗せて熱を取るもの。いずれも刻んで布に包み、それぞれ載せます。熱取る方は3つ作って、脇の下にも挟みました。
〈蜂蜜が要り用とか〉
 
(つづく)

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