【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-6-
テレパシーに呼ばれて目を向けると寝室の外にミツバチが群れています。私は陶器のポットをを手にして、そこに蜜を入れてもらいます。
〈お手伝いしましょう〉
ハチたちが手伝ってくれたこと。……かおるちゃんの汗を吸い取って敷地の裏にある小川に捨てること。
そして代わりに冷たい新鮮な水を抱えて持ってきてくれます。水を抱えるとは不思議な表現に感じるかも知れませんが、彼女達は全身に生えてる毛と水の表面張力によって、水の雫を持ち歩くことが出来ます。
はちみつ紅茶が出来た頃、かおるちゃんが目を醒ましました。
「ジョン……」
「ごめんね、連れてきちゃった」
ベッドに半身を起こしたかおるちゃんに、私はまず言いました。
「お姉ちゃんだあれ?」
かおるちゃんは丸い目をぱちくりさせてそう尋ね、我と我が身を見回しました。
「これお姉ちゃんと同じ服?」
「そう。かおるちゃんの服はお洗濯してます。雨に濡れたでしょ?」
「『マリアよ、恐れることはない。あなたは身ごもって男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい』」
かおるちゃんはトガの袖を翻してそう言いました。
「イエス誕生のところね」
「うん、かおるガブリエル様やったんだよ……え?じゃぁお姉ちゃん本当の天使?」
嘘、と示唆がありました。妖精ですのでいわゆる超能力一通り備えています。嘘と知ったのはその結果。
教会に通っていて、そこでイエス生誕の劇をしたことは確かです。でも、彼女は村人の女の役で、マリアでもガブリエルでもない。……だったらいいな。
背景が色々見えてきます。生活環境に起因し色々と阻害される要因があって、教会は唯一そういうことを気にしないけれど、
でも、主役には、姫にはなれない。
ジョンを思う気持ちがそこにシンクロします。ジョンは彼女を慕っていた。
ジョンの前で彼女はお姫様。
「天使じゃないよ。似てるけど」
私はそう答えて、背中の翅を見せました。
ニンフの血を引く私たちの翅はクサカゲロウのそれがモチーフ、複雑な翅脈(しみゃく)が巡る2枚翅。2枚重ねるとうっすらと緑色に見えます。
果たしてかおるちゃんの目は見る間にまるく大きくなりました。
(つづく)
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