グッバイ・レッド・ブリック・ロード190-
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強い結論は少々大きな声になったようである。唯一の客である彼女たちを見ていた店の娘が、ちょっと驚いたように身体を震わせた。
坂本教諭はゆっくり頷き、
「そういう結論の一つを、あなたはこの母親さんにも見出した。ああ、それで彼女を施設の……あの教会の方に」
「ええ、いじめる子を作るのは親です。パターンは色々ありましょうが、彼女の心理構造は幼い女の子のままでした。本来なら成長と共に酷くなるわがままに、あれはダメこれはダメと次第に抑制が掛かる。当然フラストレーションになる。彼我のバランス点を考えるようになる。それが対人関係、人格の成長につながる。だけど彼女は抑制を知らず、単なる横暴に育った。幼いわがままがそのまま膨張していた」
「……なんかPTAの会合に来ているみたい」
「でも所詮14の娘。ただ、その娘の側から見て、私なりの経験をふまえての、推論です。物心付く前から銃を持たされた子供は、遊びを知らない。平和という概念がない」
坂本教諭から笑みが消えた。……これは、教諭の“嘘”に対する回答にもなるだろう。
「可哀想ね……」
坂本教諭は呟くように言い、冷えて渋くなったであろう紅茶を一口含み、窓の外を見。
「泣かれるのがイヤだったのか、嫌いと言われるのが怖かったのか、それは判らない。ただどっちにせよ、あの母親さんの子どもへの対応は明らかに間違い。確かに、忙しい時に限ってモノこぼしたり、一番やって欲しくないことを、一番やって欲しくないときに、一番やって欲しくない形で、やらかすよ。でもそれが子ども。集中したいときに限って甘えてくる。……置き去りにされた気持ちになるのかしらね。でもそれが子ども。
だけどね、そういう失敗しないと、叱られないと、回避する知識や知恵は身に付かないし、それでも甘えさせてやるからこそ、満足する。甘えさせてやるから、叱るという行為が意味を持つ。叱るから甘えてくる。
鬱陶しいと思わないか?と問われたら嘘よ。確かにね。手を出して片付けてしまいたくなることもある。だけど、だからって、何もかも先回りしたら、そうあなたの言う通り、子どもは何も身に付かず、ひたすらにわがままになるだけ。傷つく痛みも、傷つけない気配りも、身に付かない。傷つけない気配りの出来ない子どもが、愛されるわけがない。親は精一杯愛情表現のつもりなのにね。そして、あなた色んなパターンと言ったけど、逆もまた真でね。甘やかしすぎても、厳しくしすぎても、子どもは歪む。歪んだ子どもは親の心の歪みの反映。子は親の鏡とはよく言った物よ」
(つづく)
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