【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-10-
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「他と違う?どういうこと?」
〈知らねぇよ。人間様の気にくわない外見だったんだろ〉
彼、の物言いは命に対する余りにも軽い認識を意味しました。使い捨て、と表現できる内容です。それはかおるちゃんの死生観とある意味対極に位置すると言えるでしょう。
〈お前死ぬってこと判ってないだろ〉
果たして彼はかおるちゃんの認識を喝破しました。
〈寝て起きるのと同じ程度に思ってやがる。妖精さんよ、人間ってのはどうなってんだい……何だこりゃ〉
彼、が顔をしかめたのは〝臭い〟のせいでした。
のみならず、その場にいた一同がざわつき始めます。大変な臭気を放つ者がやってくる。
広場からみんなてんでに走り出し逃げて行きます。一部残って遠巻きに眺める程度で、広場には私たちと痩せ犬君だけ。
〈失礼な。マーストリヒト男爵と呼べ〉
痩せ犬の彼……男爵はそう応じました。何故逃げないのでしょう。
〈お前がオレを嫌そうな目で見ないからさ。だからオレも近づくそいつを嫌な目で見る気は無い〉
男爵は言いましたが、通りの向こうに現れたその姿にはさすがに一瞬驚いたようです。
婉曲な言い回しをしても仕方が無いのでストレートに書きます。腐乱状態の犬です。
心の状態が身体の外見に現れるというなら。
「ジョンだよ」
私はかおるちゃんに言いました。気持ち悪い、普通ならそんな感想を抱くことでしょう。
ところが。
「ジョンじゃないよ。こんなぐちゃぐちゃじゃないもん」
〈妖精さんですか。僕を呼んだのは〉
意識というか気持ちはお年寄り、でも言葉遣いにはどこかしら若さ。
「ええ。かおるちゃんにはあなたが死んだということがピンと来ないらしいの」
〈だから、僕はこんな姿なんですね〉
ジョンは言いました。私はこの辺のやりとりをかおるちゃんにそのまま伝えました。
〈かおる。ごめんな、ずっとそばにいられなくて〉
寒い夜を一緒に過ごしたこと。家に石を投げてきた困った子どもを吠えて追い返したこと。一緒に花咲く堤防を散歩したこと。病気になって看病してもらったこと。
走馬燈のようにジョンの記憶の映像が走り、応じてかおるちゃんも目の前の姿がジョンだと気付いたようです。
〈僕はもう君の所へは戻れない〉
「どうして?」
(つづく)
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