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グッバイ・レッド・ブリック・ロード-216-

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 しかしその丁寧さと知的水準は、スラングと対極にあるが故に、かえって罵詈個々のどぎつさを際立たせ、ちんぴらで舌足らずな口語で言われるよりも異様に迫力があった。
 意味の判った生徒もあるらしく、そこここからざわめきが聞こえ始める。余りの露骨さに耳を塞ぐ姿も見受けられ、教員の一部にソワソワした動きが見られる。
 しかし坂本教諭は背中越しの制止を続けた。会話が成立しているからである。それはレムリアにしても同じ事。大切なのはカネで繋がっていないコミュニケーションの存在を知ってもらうこと、すなわち“金の切れ目が縁の切れ目”になる心配のない安心感。……彼女の大金の故は現時点では気にしない。
 ちなみにこれらスラングは、実は日曜学校で仕入れた。……そういう環境が世界の全てという子ども達は、そういう言葉しか知らないのである。その日その日の食い扶持を、親が子どもに指示を出し、盗み追いはぎかっぱらい。
 いけないことで神様は見てます、と根気よく教える。自分が持ち込むお菓子が目当てでもいいのである。追ってお菓子をもらった記憶と共に、連鎖的に思い出し、何か一線踏みとどまってくれれば、まずはそれでいいのだ。
 ある5歳の男の子は、ひどい訛りのあるスペイン語でこう言った。
「判ったもう盗みはしないよ。オレのキンタマに誓って(Ya detengo el robo.Doy mis testículos a usted si lo traiciono.)」
 彼にとってそれが最上級の“契りの言葉”なのだ。ヤクザの小指みたいなものだろと東京から聞いた。そして……幾ら公的に認めようとしなくても、今これを読むあなたが不快に感じていても、そういうアンダーグラウンドとその仁義は、この生徒達の手の中に、液晶の窓を介して深淵の口を開けている。
 
(つづく)

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