グッバイ・レッド・ブリック・ロード-219-
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「この辺は要らないと」
手のひらを開いてバサバサ落ちてきたのは、タバコにライター、折りたたみナイフ“肥後守(ひごのかみ)”、化粧道具一式。
突然のマジックに夢子は開いた口が塞がらない。
ええい面倒くさい。
「(偽りの装い暴かれて然り)」
口にし、夢子の頭部を前後から両手で挟むようにし、そして手を戻す。
館内がどよもした。
「ほれ」
レムリアが出した手鏡に映ったのは、頬にニキビの女の子。
赤茶の髪も黒く戻り、しかしくしゃくしゃ。
「あ、お前何しや……」
「お黙り。その顔で化粧したらニキビが悪化するだけ。お肌の細胞だって呼吸してるのにフタしてどうする」
言いながら背後に回り、その髪の毛を左右に分け、黒ゴムでまとめてツインテール。前髪はピン留め。
「メタモルフォーゼ」
「可愛いじゃないか」
坂本教諭が言い……夢子の頬が薄紅に変わる。
レムリアは薄紅の頬に軽く手で触れると、まず床のタバコを踏み潰した。しかし、肥後守は手にした。……理由、さっきのスイッチナイフとこれとは、放つ雰囲気が異なったから。
と、夢子がハッとしたような目で自分を見る。その目の意味。恐らく、スイッチナイフとこの肥後守は、彼女の中でステータスが違う。その込められた気持ちの差違が、ナイフの雰囲気をも変えている。
重要なものと見る。レムリアは柄の部分両面を手のひらでくるくるひっくり返して眺め、刻印を手でなぞる。柄は手の脂がサビに馴染んで独特の鈍い光を放ち、他方、刻印はその縁がすり減り、使い込んだ日時の長きを物語る。そのレムリアの動作一部始終を、夢子は目で追う。
その目線の追跡を、レムリアは“壊されるのはイヤ”の意と見た。
意の確認のため刃先を振り出す。周囲の小さな悲鳴は誤解に基づくので無視、刃を眺める。古代の“波の化石”のように、磨かれた鋼鉄に浮き出た紋様。
(つづく)
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