グッバイ・レッド・ブリック・ロード-227-
20
仰向けに寝かされている、とまず判った。布団のぬくもり、畳の匂い。
次いでゆっくりと目を開くと、3人の娘が自分の顔を覗き込んだ。
真由と、由香と、……化粧をしていない夢子。
「姐(あね)さん!」
夢子の開口一番に、レムリアは吹き出しそうになった。
「は……は?」
「姐さんに惚れました。弟子にして下さい」
頭を下げられる。そう来られてもいきなり何がなんだか。
上半身を起こそうとするが力が入らない。真由と由香が手を貸してくれる。
その傍らで、夢子は信長の前の木下籐吉郎のように、平身低頭。
「ちょ、ちょっと待ってね……えー前後不覚になったのは覚えてます」
言うと、真由と由香が“その後”を続ける。ぶっ倒れて救急搬送。熱が41度。
風邪と過労と脱水症状、が医師の診断。心労もあったであろう。更には木枯らしの中、薄着のまま自転車に乗り、走り回った。これがとどめを刺した形。
声を枯らして叫んだ話は、最早昨日のことと化していた。
以上説明される間、夢子はずっと頭を下げたままそこにいた。
「魔法の呪文は唱えてくれた?」
「それがね……」
真由曰く、彼女の父は評判のいい人物ではなく、スーツの裏に龍の刺繍の男が丁重に頭を下げに来た。……後に聞いたが、真由の父は死ぬかと思ったと漏らしたとか。
だから、彼女は避けられたのである。
「そんな自分に……姐さんの侠気に惚れました。ぜひ弟子に……」
「あのねぇ……」
オトコギって……何言やいいんだか。
「アムステルダムでもお供します。親父にも了解取りました」
そういう問題でなくてね。
「週末は国際特急で孤児院を回ってる。3週に一度は空飛んで地球のどこかに行く。2月に一度は1週間くらい野戦病院やキャンプに行ってる。戦乱災害があればランダムに呼び出し」
(つづく)
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