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総武快速passing love ~東京~

~東京~
 
「おじさん、子どもいるのか?」
「いねぇよ。天涯孤独」
「え?じゃぁオレと一緒だ」
「母さんいるんだろ?」
「継母だよ。何とか言う施設にいたんだ。おじさんもか?」
「一人っ子が就職したところで、両親が火事出して死んだとさ。駆け落ちだから親戚が誰なのかもわかりゃしねぇ。乗り換えるぞ」
「ああ、こっちの電車だ。そうそう南砂町」
「で?ここからどこへ?歩ける距離か?タクシー使うか?」
「待ってくれ。ママの字だ」
「ああ伝言板か……よく見つけたな。何て?」
「『ひろきへ、もう疲れました。帰ります。さようなら』……おじさん、東京駅のバス乗り場ってどこだい?」
「バス?路線バスか高速バスか。君の母さんはどこへ帰ろうと?」
「海の見える遠いところ。東京駅からバスで行ったことがある」
「高速バスか。さあもう一度東西線だ。海の見える所っていっぱいあるぞ。バスにはどのくらい長いこと乗った」
「わからない。寝てるうちに着いた」
「覚えてる範囲でいいから。首都高速は使ったか?何時頃のバスに乗った。太陽はどっちに見えた?」
「昼頃のバスで渋滞になってた。太陽は後ろの方だった」
「東か北だな。どの辺で寝たんだ。レインボーブリッジか、アクアラインの海底トンネルとか覚えてないか」
「覚えてない」
「寝てたって言ったね。着いてから起こされた?着く前に起きてた?」
「着く前に起こされた」
「どんなとこ走ってた?」
「夜だったし……あ、海のそば」
「海はどっちに見えた」
「こっち、そう右」
「だったら茨城、福島、宮城……その辺かな。さぁ大手町から歩くぞ」
「え?東京じゃないの?」
「地下鉄の大手町と東京駅は地下道で繋がってるんだよ。それだけじゃない、有楽町から日比谷まで地下で歩いて行ける」
「おじさんよく知ってるね」
「雨に濡れたくないと思うと色々調べるのさ。さて高速バス乗り場はこの辺だが」
「ひろき!」
それは彼の母親だった。苦労したのだろう、やつれて老けた感じの女性であり、大きなボストンバッグを手に、バスターミナルから東京駅側へ戻ってこようとしていた。そこに出くわしたわけだ。オレは抱き合う母子に「つまり一緒にいろという天からの啓示だ」と告げてそこから去ろうとした。すると、濡れた小さな手が後ろからオレの手を掴んだ。
「だったら、おじさんと出会えたことも神様の仕業だよ。僕の父さんになってよ」
 
(終点)
 
←新日本橋出口→

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