【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-13-
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男爵が皮肉と憎しみを感じるコメント。
その背中のトガの中から……恬淡と書きましょう、落ちたのはジョンの左足です。
ちぎれたのです。
「よこせ」
「だめっ!」
かおるちゃんは骨だけ犬の前に立ちはだかりました。
「いいじゃねぇか。死んだんだろ?」
「ジョンは食べ物じゃない」
「死んだら食われて誰かの命になる。それが野性の掟だ」
嘯(うそぶ)く。骨だけ犬の言いぐさはこの言葉がピッタリ。
〈お前が食って……どうなるんだよ、がらんどう〉
男爵が吐き捨てるように。
「何だと!?」
侮辱に聞こえたようです。骨だけ犬は男爵に噛みつきましたが。
骨だけ犬の歯は何も噛むことが出来ず、男爵の身体を素通りしてしまいます。
しかも、歯と歯が合わさったように見えたのに、カチンという音さえしません。
骨だけ犬は姿こそ見えますが。
私がかざした手は、骨だけ犬の身体を素通りしました。
彼には〝実体〟が無いのです。
「へぇ!見えるのに触れないの?変なの、影みたい」
かおるちゃんの言葉は単なる事実であり、基づく感想です。
ところが、骨だけ犬はひどくショックを受けたようでした。最前の勢いはどこへやら、バラバラに砕けるようにしゃがみ込んでしまいました。
「オレは」
〈死んでるんだよ。だから〉
男爵は極めて率直に言いました。肉声を出せる骨だけ犬が実体を持たず、テレパシーが通話手段の男爵には肉体の感覚がある。
〈こいつらは特別さ。ガイア様の気まぐれだよ。お前にモノを食うということはできないぜ〉
「それは本当か、翅人間」
骨だけ犬は私に尋ねました。
「ここにいるということは、肉の身体を失ったということ。ありつづけることも、なくなることも、再び肉の身を持つことも、全てはあなたの気持ち次第。でも……その身体は特にこうしようという気持ちが無い結果に思えます。歩かなければ、永遠にそこにとどまるだけ。私たちはこれからガイア様の所へ行きます。生きることと死ぬことはどんな意味があるのかお話ししたくて。一緒に来ますか?」
(つづく)
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