【理絵子の小話】出会った頃の話-3-
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「親御さん曰く『娘が行きたがらない学校など信用できないからお教えできません』」
担任は即座に返した。そこで、
「それ親御さんの方が正しいでしょうね」
理絵子はこう言った。
「えっ?」
「先生、なんで私にそんなことお話しになるんでしょうか。それこそ桜井さんの同意を得て話されてますか?」
楯突く、の実践。というか、教員って個人情報の扱いが軽すぎないか。
「それは……」
困った顔の担任。
理絵子はため息をついた。教員に頼られるのは今に始まった話ではないので別に気にしないが、こうやって考えなしに大事なことを喋ってしまうパターンが多すぎるのだ。ちなみに、自分が学級委員に推薦されるのが多く、そうやって頼られるのは〝父親が警官〟という理由であり、勿論出所は教員。
たかが子ども、という認識なのかも知れないが。
「まぁいです。秘密は守ります。親が親ですので」
「ごめんなさい……」
自分に謝ってどうする。
理絵子は続けて。
「彼女が、その桜井さんが、昨年度殆ど出席が無かったという事実は、私たち新2年生の間ではどの程度知られているのでしょうか。他の先生方は?」
「教員の間では共通認識です。生徒達に知られていることは無いはずです。ただ、主任からはあなたと連携が取れれば良い旨助言されました」
生徒相手に敬語なのが気になるが、まぁ真剣さの裏返しなのだろう。
「それで、今年度も早々に欠席で、昨年の繰り返しになるのではないかと気を揉んでいる。こういう認識で良いですか?」
「ええ。なのでその……」
「判りました。ちょっと寄ってみます。プリントも渡したいですし」
理絵子は立ち上がった。
「え?まだ何も……」
「何も聞きたくありません。先入観や表面上のおためごかしには敏感ですよ私たち」
理絵子は応じた。単に、陰でコソコソ何か言われる行きたくない教室と思われるのはイヤだ。ただそれだけ。素のママの状態でアプローチした方が絶対に良い。余計な入れ知恵は要らない。
「では、失礼します」
「住所は……」
理絵子は住所録の番地を口にした。住宅街の奥にある最も大きな面積のお宅だろう。
すたすた歩き出す。
「え?一人で?私も一緒に……」
「生徒の力じゃダメになってからが先生の出番かと。まぁまずはお話してきますよ」
(つづく)
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