【魔法少女レムリア短編集】東京魔法少女-10-
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醜悪な男が自分とゲームキャラクターを同一視していることを知る。自分はその美少女キャラにそっくりらしい。
衆目が醜悪な男に一瞬目をやり、しかしすぐにそのまま歩き出す。“触れた”のが何か叫んでいる、関わらない方がいい。そんな認識なのだ。
「……!」
醜悪な男が自分を指差して何事か高らかに叫び、走り出す。ゲームの中で女の子を意のままに操る呪文であるらしい。
明らかに虚構と現実の区別がついていないのである。正確に言うと、ゲームの世界観に埋没するあまり、現実で遭遇した似たような存在に認識の垣根が外れてしまった。
もちろん、そんな者を自分たちに近づけるつもりは毛の頭ほどもない。傍らでハリーが鼻にしわを寄せて唸っているが、彼に噛みつかせることすら穢らわしい。
レムリアは手を伸ばし人差し指を天に向ける。その先には輝きを持つ前の白い半月。
「(意図したこと形をなさず)」
「お姉ちゃん何か言った?」
レムリアが小声で口にしたのは、日本語に訳せばそんな意味のフレーズ。
月示した人差し指を唇に触れ、次いでその指を男に向ける。なお、乱用防止の観点から、彼女が言った言語について、文字での記述は差し控える。
こんな出来事が生じた。
醜悪な男の古びたリュックの底が抜けたのだ。
道路上にドサドサと落下する、恥ずかしい表紙の本やゲーム。
「あーっ!あーっ!」
醜悪な男はにわかにパニックになり、路上にしゃがんで本を集め始める。それらが衆人環視の中では恥ずかしい物体であるという認識、羞恥心はあるようだ。しっかりと目が覚めたか。
「お姉ちゃんすご……」
「行こ」
醜悪な男がうろたえている間に、レムリアは真美子ちゃんの手を引き、ハリーと共に走り出す。男がそんな自分たちに気付き、また何か叫んでいるが、最早相手にする気は無い。角を曲がって男の視界からさっさと消える。
信号を渡って駅前へ向かい、更に駅に出入りする人波に紛れる。更にはここの駅ビル“アキハバラデパート”に入り込んでしまえばよいのだが、ハリーがいるので無理。
「おうちあっちだよ」
(つづく)
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