【魔法少女レムリア短編集】夏の海、少女(但し魔法使い)と。【1】
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「海行きたい」
黒い瞳をキラキラさせて、目の前の少女は言った。
少女は彼に、自分のことをレムリアと呼ばせている。身長152。もうすぐ14歳になるが、このところ少しずつ背が伸びているとか。ビジュアル的には少女マンガのヒロイン向きと言おうか。肩に触れずにすぱっと切った、ショートカットでサラサラの黒髪に“ころん”とした顔立ちの持ち主。その表情を眺めていると、見ている自分まで笑顔になっしまう、そんな涼やかな可憐さをまとった娘だ。盛夏であり、服装はノースリーブにショートパンツ。普段はジーンズだが、それではさすがに暑いとか。それが証拠に、腕にはひと頃のスポーツ少女のように日焼けが見られるが、ほっそりした足はそうでもない。
「今からは混んでるぞ?」
せがまれたメガネの男は、後頭部をボリボリ掻きながら、眉根をひそめ、少し頬を赤くした。相原学(あいはらまなぶ)。身長168。今年から会社勤めという22歳である。電気エンジニアのタマゴであり、秋葉原でしかめっ面して“トランジスタ技術”を読んでいたところ、レムリアに“お似合い”と大笑いされた。美男子というわけでもないので委細略する。
このように年の離れた二人であるので、一緒に行動する時、関係を説明するには、“いとこ同士”ということにしてある。しかし、実際には二人の間に血縁はなく、どころか、レムリアは見た目に反して日本人ですらない。
「混んでても構わないよ。泳ぐわけじゃないから」
レムリアは言うと、ボストンバッグから青いポーチを引っ張り出し、中から日焼け止めクリームを出して顔と手足に塗り始めた。
「海ならお前さん住んでるとこ干拓するほどあろうが」
相原のセリフの意図については、オランダの正式国名“ネーデルランド王国”の語源をお調べ頂きたい。
「太平洋に行ったってのが自慢のタネになるんだよ」
レムリアは言い、麦わら帽子をかぶってニタッと笑った。確かに、欧州から太平洋を臨むには、アメリカかユーラシアのどちらかを横切る必要がある。
ウェストポーチを巻いてベルトのロックをパチン。
「はい、いいよ」
(つづく)
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