アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-004-
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喫水線より下に船外へ開く造作物がある。それは、この船が通常の水上を行く船ではないことを意味する。
スロープの向こうに人影。
一見して女の子である。身長152の細身、肩に触れぬ程度にスパッと切った黒髪の持ち主であり、少女マンガのヒロインを思わせる大きな瞳は夜空の如く。……ただ、これら描写の文言は、相原の脳裏に自動的に浮かび上がった彼の〝知識〟。
「驚かせてしまったようで」
硬い表情で、表情に同期した低めのトーンで、女の子は呟いた。
スロープを歩いて、月明かりの草原に降りてくる。白いTシャツにデニム地の短パン、ウェストポーチを付けた軽快にしてラフなスタイルは、体型の細さもあるが、ボーイッシュと言うより少年そのもののよう。
「風は……風でケガをしたりはしなかったですか?」
尋ねる口調には少し落胆のトーンを含むか。
「ああ大丈夫……てぇことは、お前さん、レムリア……」
Lemuria。相原ははんてんの手を伸ばし、少女を指さし、その幻の大陸の名を口にした。
「ええそうです。でも、思いだしたというよりは、夢でも見てるんじゃないか、そんな感じですね相原さん」
少女レムリアは、月が雲に陰るように、そっと目を閉じた。
二人とも、相互に相手を知っている。相原にとって、レムリアこそは、その夢見るような魔法少女である。相原にとって、今目の前で起こっている事象は、いつしか居着いた夢の少女が、物語の中の娘が、現実・覚醒の状態で現れたことを意味した。
対しレムリアにとっては……レムリアは閉じた目を開き、相原を真っ直ぐ見る。
「あなたは……いえ、申しますまい。実は本日はお願いがあって参ったのですが、あなたを混乱させるのは不本意ではありませんので」
「本物か」
レムリアの物言いが終わるなり、相原は問うように言った。
「え……」
「オレが今この目で見ているのが夢そのものかどうか、と訊いてるのさ」
「夢……」
(つづく)
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