【魔法少女レムリア短編集】東京魔法少女-12-
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魔法使いになれば助けてあげられる。そう思ってかのファンタジーを一生懸命読んだという。
でも、本の通りにはならなかった。ほうきも空を飛ばなかった。
そこで出会ったのが自分。だから、家に来て。
どうする?自分?
「まず、ご飯作ろう。それから、お母さんとお話しさせて。私こう見えても看護師なんだから」
レムリアは努めて明るく言った。まずなすべきはそれだろう。
「わかった……」
真美子ちゃんはぐずぐず声で答えた。レムリアはハンカチで拭った。
笑顔の復活を待って、雑居ビルの階段通路に入る。1階は店舗スペースのようだ。しかし閉じたシャッターは錆び付いており、もう随分とテナントはないらしい。
階段の昇り口には集合ポスト。どの投函口も広告が押し込まれてぐしゃぐしゃ。
その中で小ぎれいに保たれているポストが一つ。そこを真美子ちゃんが覗く。
「何も無し。っと」
錆の見える鉄の階段を上がり始める。入居しているのはこの親子だけのようだ。
カンコンと音を立て、真美子ちゃんがそれでリズムを刻みながら2階。ドア前に犬小屋の置かれた一室。
ハリーがさっさと小屋に戻る。恐らく本来は犬を飼えるビルではあるまい。不況で土地が売れ残り、取り壊しも中止。一家族だけなので犬も黙認。そんな図式が伺える。
真美子ちゃんが首から下げていた紐を引き上げ、ドアカギを取り出す。
「ただいま~。お母さん、お客さん」
少しあって。ゆっくりと。
「珍しいね。お友だちかい?」
かすれた、か細い声。
「ううん。お姉ちゃん」
「え?」
訝るお母さんにごあいさつする。
「あの……“中華ばんば屋”のご主人から頼まれて真美子ちゃん送って来ました。看護師のレムリアと申します」
レムリアは部屋の奥に向かって言った。部屋は暗いが整理され……
それは表現として正しくない。何もないのだ。畳の上にちゃぶ台一つ。
加えて言うなら湿気がこもっており、カビ臭い。ポストの状況からして真美子ちゃんが掃除をしているのだとは思うが、限界があるだろう。
(つづく)
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