【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-14-
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骨だけ犬は何も言いませんでした。
承知したくない現実を突きつけられた。彼の意思はそんなところでしょうか。
迷いの存在を感じます。まぁ確かに、こんな姿になるまでここにいたのに、私たちが来たからと白黒付けられるものでもないでしょう。さりとて、私たちにも彼の判断を待つ時間はありません。
すると。
〈自分の足をこの方に差し上げて下さい〉
ジョンが言いました。
「でも」
〈良いのです。迷えるこの方の前を通りかかり、そこで足が落ちた。それはそのように配剤されたと思うのです〉
〈お前本気か?〉
〈今、自分がかおるちゃんとここにいられるのが証拠さ〉
彼の意志を尊重し、足をそのままに、骨だけ犬もそのままに、私たちはそこから離れました。
骨だけ犬は噛めない肉に挑む虚しい努力を選んだようです。私たちは町を外れて湖水へ向かいます。道は次第に狭まると同時に上り勾配となり、林の中に入ります。
地響きを立てて上から何か落ちてきました。
見上げるようなサイズの巨大なクモです。
かおるちゃんがジョンを背負った男爵の前に出、手足を広げて通せんぼ。
「ジョンはあげないよ」
〈ちっ!妖精が一緒か〉
「お前さんは番人の一族とは違うようだね」
私は大グモに問いかけました。ここは動物の遺骸が集まっているわけですが、同様に虫たちの遺骸が集まるエリアもあり、そこに住まう一族があるのです。
〈もっとデカイのが欲しいのさ〉
バード・イーター(鳥喰)と呼ばれる手のひらサイズの大きなクモがいるのは確かです。
「ジョンはダメだよ」
〈お前でもいいぜ人間……〉
〈てめえ、ケツの穴に噛みついてやろうか〉
男爵が唸りました。彼の言は女性に属する私が書くにはいささか躊躇を否めませんが、要はクモは尾部に糸を紡ぐ器官を持っており、それを差しています。
〈噛めるものならな〉
「要はそこが弱点なんだ」
(つづく)
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