【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-15-
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そう言って動いたのはかおるちゃんでした。手近の枯れ枝を手にして剣のように構えます。
〈生意気な……食ってやる〉
大グモは言いましたが、アゴを開いて威嚇するだけで行動には出ません。
私がいるからでしょう。しかし、クモのそうした躊躇は、かおるちゃんが行動に出るには充分な時間となったようでした。
枯れ枝を、ぐさり。
クモは驚き、反射的に第4歩脚でかおるちゃんを弾き飛ばそうとしました。
咆哮が響きました。
狼が来た、と誰もが思ったことでしょう。
しかし、咆哮の主はジョンでした。ジョンは男爵の背中から飛び出しました。
そのジャンプの勢いは、彼の身体では既に受け止めることが出来ませんでした。
彼は文字通り身体を四散させながら飛びかかりました。
鼻に皺を寄せ、牙を剥き、振り出された歩脚に食らいつきます。
クモの脚は根元からちぎれました。取れやすく出来ています。敵の注目が脚にあるうちに逃げるのです。
脚は丸太のような音を立てて地面に倒れ、一方のクモ自身はジャンプして距離を取り、そのまま逃走。
ジョンは、もはや、自分で動くことはできない状態でした。
男爵の背中からトガを取り、包み直します。
「私が持つ」
かおるちゃんは言いました。
女の子が歩いています。抱える白い布から犬が顔を覗かせているけど……顔だけの状態。
行く手に邪魔をしたり声を掛けたりする者はもうないようです。私たちは森を抜け、深い谷に渡された吊り橋を渡り、霧の斜面へ。更に風に逆らって上がって行くと、湖水に抱かれたギリシャ神殿様式のお城が姿を見せました。
「あそこ?」
「うん」
お城は湖水脇の高台にあります。白い大理石の階段が幾らか連なり、その一番上に私と同様のトガを纏った女性の姿あり。
「神様?」
「いいえ、仲介をして下さる……」
何人か事務局担当の仕事をしている妖精がいますが。
「ティルス」
名を呼んだら聞こえたようで、彼女は片手を上げました。
(つづく)
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