【妖精エウリーの小さなお話】花泥棒-16-
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栗色の長い髪の持ち主で、トガをなびかせ、霧が流れるような動きで階段を下りてきます。
「こちらでお見かけするとは珍しい、エウリディケさん」
彼女は言うと、かおるちゃんの前に膝をついてしゃがみました。
「あなたは……人間さんね」
「お姉さん綺麗」
かおるちゃんは言いました。
「ガイア様ならお待ちよ」
つまり、判ってらっしゃるということ。
〈お、オレは……〉
男爵が躊躇を見せます。
「当然、ご一緒に。ここはガイア様に用のある方、ガイア様がお招きになった方以外たどり着けません」
ティルスの先導で階段を登って行きます。するとその間にジョンの身体がみるみる原状に復して行きます。
ただ。
首から下は見えても触れない状態です。かおるちゃんが一瞬喜んで撫でようとしましたが、その手は素通り。
〈いいよ。自分で動けるから〉
かおるちゃんの手がジョンから離れます。
王宮入り口のホールで入場者確認を受け、中へ入ります。アーチ形の梁が連なり、私たちの足音が静かに反響します。かおるちゃんと、ティルスと、私。
犬たちの足音はありません。
王宮深奥へ進んで行きます。外光は入りませんが、柱と壁をなす大理石自身がほのかに光り、黄昏程度の明るさはあります。
「ここでしばらく」
通されたのは謁見室。とはいえ、たいそうな玉座があるわけではありません。大広間の奥方が一段高くなっているだけ。
ティルスは私たちを残して退室しました。ちなみに〝ドア〟はなく、その代わりに手をかざすことで壁が現れたり消えたり。
いい香りのする緩やかな風が、その奥の一段高いところから流れてきました。
人影。ガイア様です。
「まぶし……」
かおるちゃんが手をかざしました。そうかも知れません。ガイア様のお姿は〝人の形をした光の塊〟。
(つづく)
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