【理絵子の小話】出会った頃の話-5-
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すると、インターホンの向こうは少しあってから、
『それはどうもありがとう。ポストに入れてお引き取り下さって結構ですよ』
なるほど。
「幾らか口頭でご説明差し上げたい事項があるのですが」
『そのままおっしゃって下さい』
「沢山ありますが」
『どうぞ。娘に伝えますので』
そう言われては仕方ない。インターホンの通話ボタンを押したまま淡々と喋る。給食のスタートは来週月曜。教科書の配布が明日と明後日。当面の予定として諸々の集金が月末。ゴールデンウィーク開けから家庭訪問……。
と、話していたら、うるせぇぞ!という声が向こうから聞こえた。
随分荒れた口調だが女の子は女の子である。当人だろう。
『あら優子ちゃんいいのよ。私が聞いてるから』
向こう側でノイズががさごそ。
『誰だお前。っざけてんのか?(ふざけてるのか?)。痛い目に遭いてぇのかよ』
割り込んだらしい。低く落ち着いたトーンは体格が大柄であることを感じさせる。
そして攻撃的で排他的な口調。ただ、それは不思議にもある種の恐怖感の存在を意識させる。
「3組の学級委員で黒野理絵子。よろしく。お休みだったんでプリント届けに来たんだけど」
『置いて帰れよ』
「直接手渡ししたいものもあるんだけど」
『なんだそりゃ』
「インターホン越しに乙女同士が話すのはちょっと……なんだけど」
するとインターホンはガチャリと切れた。
乙女がまずかったか。バカバカしいフレーズと取られてコミュニケーション切られたか。
と、思ったが。
庭を挟んだ向こうで引き戸がガラガラ開く音。
次いでサンダルを突っかけ、石かコンクリートをカン、コン、と歩いてくる音がし、
門扉のカギが操作され、開かれた。
上下ジャージで髪の毛ぼさぼさの娘がいた。
背は理絵子より相当高い。冷めた表情、訝しげな目線、抜かれて薄い眉。痩せすぎに見える体躯はどこか痛々しい。
「初めまして」
「早く帰れよ。何だよ……あのなちょっと来い」
桜井優子は舌打ちし、唐突に理絵子の手首を掴んで門の中へ引き込んだ。
中は日本庭園である。池を巡ってぐるりと飛び石が設えられ、芝生も綺麗に刈り込まれている。そのずっと向こうの玄関先に和服姿の女性。母殿であろう。
会釈すると深々と一礼。
(つづく)
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