【理絵子の小話】出会った頃の話-6-
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桜井優子は門の扉をぴしゃりと閉めた。
「悪いこと言わない。帰れ。殺されるぞお前」
それは出会って一番女子中学生が口にするセリフでは到底ないが。
「え?どうして?」
理絵子は特段意識せず、普通に友人間会話のトーンで返した。
果たして桜井優子は首を振って勢いを付けて舌打ちし。
「お前オレのこと知らないのか?」
「ウチのクラスの優子ちゃん。出席番号女子の8番」
「そうじゃねーよ。ネンネだな。彼氏がゾクのカシラなんだよ」
それが不良の専門用語であることはすぐ理解出来た。
「暴走族のリーダーさん」
「可愛く言うんじゃねーよ。まぁそんなとこだ。もうすぐ来るんだよ。学校がオレに手を出したってお前消されるぞ」
彼女に感じる〝恐怖感〟の正体はそれか。
が、自分の方にそんな感覚はない。
「ついてっちゃだめでしょそんな彼氏」
理絵子はあっけらかんとそう返した。
「暴力を背景圧力に束縛するなど本当の男のするこっちゃない」
「……しっ!聞こえたらどうすんだよ」
「監視でもしてるの?」
「優子ちゃん、中に入っていただきなさい」
母殿が一言。
何らかの要因で束縛が生じ、母殿はそれを知っているも、打開する行動は取っていないようだ。
周辺の人間関係はどこか妙。それは明らかだろう。
「しょうがねぇな……お前学校に行ってこいって言われたんじゃ無いのか?」
「学級委員が心配しちゃだめ?」
「心配って……」
桜井優子は一旦呆れたような表情を見せ、
「いいから入れ……」
ぐいぐい腕を引かれて庭を横切り、引き戸の中へ招き入れられる。
家屋の中は純和風。
靴を脱ぎ、向きを変え、揃えて置いたら母殿から感嘆の声が漏れた。
「改めまして。学級委員を引き受けた黒野理絵子です」
客間に通される。巨大な杉を輪切りにした座卓の前に正座。
その座卓を始め、掛け軸や壺など、調度は経済力を物語った。
自分の傍らにドッカとばかり胡座をかいた桜井優子の前に、学生カバンを開いてプリントを出し、手帳のメモを破いて渡す。
「インターホンで話したことと、言い残しがひとつ」
〝ギョウ虫検査〟のキット。
(つづく)
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