【理絵子の小話】出会った頃の話-8-
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「お前、何か違うな」
桜井優子は頬杖を突いて理絵子を見、そう寄越した。遊ぶ仔猫を見守るような表情……に見えたのは、気のせいかうぬぼれか。
「じろじろ見られてヒソヒソ……でも、お前と一緒ならそういうこと無いかもな」
出てくるのは稀。だのに、たまに出てきても良くないウワサは知れ渡っていて〝ここだけの話〟大量生産。誰も話しかけてこないが、みんな自分のことを話している。
「勉強教えてくんねーか?……1年サボっちゃったし」
桜井優子は言い、ハッと気づいたように視線を外して。
「ウソだよ。自分自身で努力しろってな。引きこもっておいて自分勝手なわがままだよな」
「いいよ」
理絵子は言った。
「え?悪(わり)いよ。いいよ。前言撤回」
「何で?友達同士が一緒に勉強って普通だと思うけど」
桜井優子は頬杖の姿勢を改め、正面から理絵子を見た。
その驚きに満ちた表情はまるで……まるで初めて告白を受けた女の子である。
「お前そこで友達って言葉さらっと出てくるか?」
「先に行ったのは優子」
彼女の驚きの背景を踏まえ、理絵子は敢えて呼び捨てにした。
「……なんか久々に聞くな、呼び捨て」
桜井優子は言ったが、温和な言い方からして謝る必要は無い、と理絵子は判じた。
と、同時に、それは彼女が一般的な級友同士、女の子同士の時間を失って久しいことをも意味した。
「可愛いのな、お前」
桜井優子は薄笑みを浮かべた。
これから会話が弾んで行きそう……なのだが、それを壊す存在がバイクで来て、止まった、と理絵子は知った。
「来たみたいですよ」
門扉引き戸が開けられたと判る。
その音は母子にも確実に聞こえたようで、桜井優子は玄関方向に顔を振り向けた。
「隠れろ」
「え?さっき大丈夫だって……」
「後から言い訳する分にはってことさ。現行犯は別だよ」
桜井優子は理絵子の袖口を持って立とうとする。一方、彼氏たるその者は庭石を無視して無遠慮に横切り、
「いつも池に吸い殻捨てるんですね」
理絵子は言った。
「何で判るんだ?」
「さっき歩いたとき鯉たちが嫌そうにしてましたから。来客が嫌いか怖いんだろうなって」
玄関の扉が開けられた。
(つづく)
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