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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-036-

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 更に言えば、よらず巫女は少女が仰せつかることが多いが、オカルトの世界観を借りると、女性は霊体と生命体とを結びつけ、一個の〝人間〟として世に送り出すという、平塚らいてうの言う通り非常に神聖な役目を負った存在と言える。従って、女性が感受性豊かな少女の時代……レムリアがまさにそうである……に、巫女として霊的な言葉を授かる役をやったところで、それは当たり前でも不思議ではないのだろう。
「早く」
 レムリアは急かすが相原は動かない。
 動けない。見とれて釘付けになっているのである。出産の現場を筆頭に、巫女性・女神性の発露を目の当たりにして、そうならない男はおるまい。否、おののいて逃げ出す者はあるかも知れぬ。
「あの……相原……」
「は、はい。ごめんよ」
 再度急かしたら、相原は呪縛を解かれたようにびくりと身体を震わせ、レムリアの表情の苦しげに気付き、急いで、しかしそっと、レムリアの両手に自らの両手を重ねた。
 冷たい……と相原が認識していることが判る。
 対しレムリアは相原の手のひらを熱く感じる。
「全身の、エネルギーが、月との交感に使われるから、体温の制御が、おろそかになる……」
 口を開くと月の力がそこから流れ出ようとするので、一言ひとことちぎって喋ったら、あたかも息も絶え絶え。
「大丈夫かい?」
「うん。行くよ」
 息を詰める。その流れ出そうとするものに、口ではなく腕から手先へ行くように指示する。声として出す代わりに、手のひらをぐいと押し出す、そんなイメージ。
 これで冷たい手のひら一転、焼け石のように熱くなったはずである。果たして相原が反射的に手を引っ込めようとする所を、指を絡めて引き留める。
「いっ!」
「我慢して。ここで放したら、何が起こるか、私にも判らないから」
 レムリアは言い、判らない理由が自分の未熟さであると気付かされて歯がギリッと鳴った。
 手の熱さが消える。
「うっ……」
 相原が唸る。自分と同じく力が声になって逃げようとしている。
 
(つづく)

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