【理絵子の小話】出会った頃の話-11-
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障子と木枠の窓を突き破り、ガラスの割れる音と共に、3人は庭へ転がり出た。
少女2人は期せずして互いの手を握りながらガラスの海に寄り添い立っていた。
男は血だらけで土の上にあり、よろめきながら立ち上がるところであった。
ガサガサと庭草を踏みつけ走ってくる複数の足音が聞こえ、子どもっぽい顔をした……小柄な男が2名顔を出す。
しかも制服、学ラン、同じ中学。
「……黒野」
1名が理絵子を指さした。
3年生で悪名の知れた男子生徒であった。名をAと置く。
近所にいたから知っていたが、小学校時分から評判は良くなかったと認識している。万引きや自販機破壊の常習であり、授業を抜け出して公園で一服していたことも幾度か。
いわゆる〝不良化〟は、上位学年が下位を誘い込むことで伝搬する、と、プロ(?)の学級委員として知っている。
そうか、この竜の男がその手引きか。
「立ち去れ」
理絵子は男に投げかけ、同時にAらを一瞥した。
深甚な驚愕がAらを捉えていると判った。普段自分達を暴力でねじ伏せている〝先輩〟が、1学年下の女の子に血だるまにされているのだ。
その状況で彼らを一瞥、がどれだけインパクトのある行為か、考えるまでも無かった。
男は拳を作って庭土を掴んだ。
「目つぶしなら無駄だよ」
理絵子は冷たく言い放ち、右足を動かすそぶりを見せた。足の下踏んでる石をそのまま蹴れば、石が弾いたガラス片が男に突き刺さると知っていた。
次から次に対応策が浮かび、自分達が絶対に負けないという確信があった。
男は臆病なヤモリのように手足で這って動くと、火が付いたように立ち上がり、男子生徒二人を捨て置いて一目散に逃走した。
「あっ」
彼らが呼び止めるヒマすら無い。
「お前……」
「お、覚えてろ!」
陳腐なチンピラマンガさながらのセリフを吐いて、男子生徒らは男を追った。
バイクの音がしない。置いて去ったか。
或いは待ち伏せか。理絵子は縁台下サンダルを借りて確認に向かおうとした。
「もういい、もういいよ。くろ……りえぼー」
桜井優子は理絵子の肩に手をして引き留めた。
完膚無きまで追い込む、桜井優子は理絵子の行動と性格をそんな風に捉えたようである。
「待ち伏せされたら、今度こそお前がケガする」
「そうです。お入り下さい。私たちはあなたに守られました」
本気で心配されている。正直、このまま出て行って自分がどうにかされるという感覚は無いが、当座の懸念は無くなったというのも実感として存在する。
(つづく)
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