アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-063-
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クレバスが城郭の〝掘〟のようにぐるり囲んでおり、件の武装ヘリはその囲みの中心付近へ逃げ込んだというのだ。
「そこでレーダーの反応から消えたそうです。氷床下へ降りたのでしょうと」
「……結局水核炉の時は船で地下に突っ込んだんだっけ?」
相原が訊いた。それは前述のウラン鉱云々の話で、彼が失神中に話して聞かせた事案である。軍事国家が核兵器用プルトニウムの生産を画策、ウラン鉱脈に大量の水を流し込んで〝天然原子炉〟を構築していた。しかも、そのプルトニウムを密かに増産してクーデターを起こそうとした者があり、過程で核事故が生じてアルゴ号が検出した。
結果として高熱が断層を刺激し、地震が生じて炉は潰れた。大量のウランは地割れに落ち込み、地下深くに分散した結果、地上の放射能汚染も抑制された。
船が戻ってきた。改めて船倉を開き、ストレッチャー回収用のロープを下ろしてくる。
「悪い奴の考えることは似てくる、と。南極の氷床下は構造が不明な部分が多い。船の手持ちのデータと……全波長スキャンできるシステムあったな。イベントディテクタだっけか?ドクター用意できますか?」
相原が尋ねる間にストレッチャーをロープのフックにぶら下げる。なお、イベントディテクタとは、改変検出とでも訳すか、2枚の写真や、普通の写真と赤外線解析を比較するなどにより、差違を見つけ出す技術である。以前は無かった核施設を衛星写真で検出するなどで使われる。
その時。
「ターゲットシステムが擾乱を捉えた」
アリスタルコスが呟いた。
レムリアはテレパシーを全力で駆使しようとし、無垢の本質を覆って邪魔するウェアのフードを外した。
極地の氷中で、素肌晒して感じたのは。
「……風」
短い髪の毛、されど僅かな揺れでも判る。
「風が来ます」
スコット隊を死に追いやったのも氷の暴風であるが。
(つづく)
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