アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-069-
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シャチは失速し、ラングレヌスの直下氷壁に頭から突っ込み、そのまま幾らかの氷の欠片と共に、微動だにせず水中へ落下する。
水しぶき、シャチの眼窩から流れ出す血液の赤。
船が彼の位置まで移動完了した。船底カメラが以上の有様を捉える。
「降ろしてもらっていいですか?」
レムリアは一同に尋ねた。
『オレの心配なら有り難いが無傷だぜ。看護婦とのロマンスは一生無いな』
「違います。シャチの意識をテレパシーで覗いてみたい」
『ちぇっ』
「危険ではないのですか?」
セレネが訊いた。
「記憶の機能が生きていれば、何か判ると思います。危険と判れば引き返します」
動物との意思疎通は古来魔女のたしなみ。
「判りました。船ごと降ろしましょう。クレバスの幅を広げることは出来ますか?」
セレネの言葉にシュレーターが船を操る。一旦ラングレヌスを船に回収し、光圧シールドの出力を上げて、その熱と圧力で氷を溶かし、一部押し割る。
シャチの傍らに船を浮かべる。離着陸・水中推進用の流体噴射システム、フォトンハイドロクローラ(直訳すると光子流体無限軌道)を逆転使用し、シャチの身体を船に吸い付ける。
まずレムリアはシャチの目の部分を見て言葉を失った。眼球をえぐり取られた様は無残であり、言葉に起こしたくない。相原の言う通り、そこに同サイズの照準付き電子頭脳を埋め込み、視神経を経由して脳に攻撃的な指令を与えていたことは明らかであった。従事している業界が業界なので、脳が理解可能な形式で電気信号を生成する技術があると知っている。最もそれは、本来失われた感覚器や四肢の補完に使われると雑誌で見たが。
「どんな状態ですか?」
セレネが訊いてきた。個人的な感傷は後回し。
まず、眼窩にあって動脈血を間欠泉のように噴き出す血管を少し引き出し、手で縛って出血を止める。ホースを縛るのと全く同じである。
男達が絶句しているのを感じる。ただ、自分が知る限り兵隊向けの大怪我対処マニュアルに書いてあるのを見たことがある。
自分の四肢が吹き飛ばされた場合に備えて。
(つづく)
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