【理絵子の小話】出会った頃の話-17-
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マスターは理絵子達のテーブルに腰を落ち着けた。この時点で女子大生達は在庫のケーキをほぼ食べ尽くし、テーブルが空き始める。
「代金は?」
「飲み物プラス300円で。置いといてくれればいいよ」
「じゃぁ二人分。理絵ちゃんばいばーい」
「あ、どうも」
数名、顔見知りになった大学生もある。
マスターが外へ出、ドアの札を〝準備中〟に裏返す。
理絵子は気が付く。
「殺意、敵意」
感じたままを呟く。
「え?……」
程なく、マスターが所作を止めて目線を移した。その方向は理絵子の視線と一致した。
接近してくるバイクの一団。
「あいつら……」
立ち上がる桜井優子をマスターが窓越しに手で制す。
5台の改造バイク。
ノーヘルメットであるので誰なのか明らかである。彼氏、A、B、と他に2名。
「ビッチどもがいなくなるまで待ってやったぜ。感謝しろよ、マサさんよ」
彼氏、はそう言った。ビッチ、は女性に対する蔑称であって女子大生達のことであろう。
対して。
「そうだな、お前が血だらけになって彼女らがキャーキャー言ったら近所中に丸聞こえになるしな。それともションベン漏らすのおねーさん達に見られたくなかったか?」
マスターの切り返し。
「ぶっ壊すぞ」
彼らは獲物を手にした。バットや鉄パイプ。
店舗を破壊しようというのである。
「本性現したか、破門だ、消えろ内燃ゴキブリ」
「偉そうに何様のつもりだ」
「オレサマだ文句あるか落第」
その……それこそマンガで善悪の戦闘前に交わされる能書きのような会話が罠であると理絵子は知った。マスターを会話に誘い、注意を逸らす。
彼らの目的はあくまで桜井優子だ。
獲物を使う。飛び道具。しかも超高速で相手に届く。
パフェのスプーンを、理絵子は桜井優子の傍らにひょいと出した。
「どした?」
きょとんとする桜井優子。この緊張した場面で唐突にスプーン動かせばさもあろう。
その時、男Cが「あっ!」と声を出した。
己れの目を押さえてうずくまる。その手からこぼれ落ちるペンによく似た物体。
(つづく)
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