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【理絵子の小話】出会った頃の話-18-

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 規格外に強いレーザポインタ。理絵子は男Cが光条で桜井優子の目を射ると知り、スプーンで反射させたのである。
 そして光は反射され男Cの目を撃ち、男達の目がそこへ向いた。
 刹那、理絵子は湯気立つコーヒーサイホンのガラス容器を手に店外へ飛び出していた。
 桜井優子がそちらへ目を向け、次いで数瞬前まで理絵子が座っていた目の前を見やる。
「理絵ちゃん!」
 マスターが気付いて声を掛けたとき、理絵子は容器を投擲していた。
 同じ状況で男の子であったなら、誰であれ何らかの球技に基づき威力を発揮したであろう。しかし、理絵子は小柄な外見なりの筋力であって、部活も文系、文芸部の所属。投擲フォームは不格好に過ぎた。
 フワフワ飛んでくるような容器を男Dが金属バットでひっぱたく。
 当然、割れる。破片は逆に理絵子とマスターに対し攻撃のつぶて。
 しかし破片はマスターが広げた入り口ドアマットに阻止され、対し割れた容器からはまだ熱いコーヒーの粉末が降り注ぐ。
「うわ熱っ!くそっ!」
 男Dがバット投げ出してのたうつ。顔から手から付着した熱い〝出がらし〟の排除に躍起。
 それは、例えば調理器具や熱湯の接触の場合、人間側が反射的に身体を動かせばそれらとの接触は断たれるが、このように水分によって人体に付着するようなものはそのまま付着し続ける。同様の理屈で炊きたての米飯で幼児がひどいやけどを負う例が見られる。
 金属バットはマスターの手に。
 目を射られてパニックのCは戦意喪失。Dはようやく出がらしを振り払って起き上がる。
「ナメたことしやがって」
 Dと彼氏は〝寄越せ〟とばかり中学生AとBに後ろ手を出す。彼らの鉄パイプで殴りかかってこようというのだ。
 理絵子は怒鳴る。
「優子!トイレの洗剤!」
 男二人が殺気一転、ゲラゲラ笑う。
「掃除はぞうきんでやるもんだよ」
 鉄パイプを振りかざす。応じて理絵子はドアマットを〝洗濯物のしわ伸ばし〟(力学的にはムチ打ちの要領と同じ)の流儀でパンと払った。
 マットは鉄パイプをはたき、のみならずマットに付着していた微細なガラス片なども飛び散らせた。
「うわくそっ!」
「痛っ!何だこれ!」
 襟元から入り込むなどさぞ痛かろうと思う。……ざまあ見ろ。
 金属バットが活躍する。但し人体を殴りつけたわけではない。鉄パイプを叩き落とす。経過は時代劇のチャンバラさながらだが、ちんぴらとサムライ以上の差が見て取れた。
 トイレ洗剤を持ってきた桜井優子にパイプを一本渡す。理絵子は洗剤を受け取り、更にマスターのバットと交換する。
 片手にバット、片手に洗剤。塩酸系液体洗剤。まぜるな危険。
 
(つづく)

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