【理絵子の小話】出会った頃の話-20・完結-
翌朝、セーラー服をスタンダードに身につけた桜井優子は大人びた印象であった。
「お姉さんみたい」
彼女を見て開口一番、理絵子は言った。
「お前ってホント恥ずかしいこと平気で口にするよな」
桜井優子は言うと、結んでいたセーラーのスカーフをルーズに緩めた。
「優等生はお前に任せる。これで不良っぽいか?」
「全っ然」
「ちぇ、明日から化粧してやる」
一緒に登校する。交差点で、坂道で、合流する生徒達からは奇異と驚嘆の目線が集まった。桜井優子が気付いて目線を向けると伏せてそそくさ。
そこで理絵子は桜井優子の腕に自分の腕を絡めた。
「ゆりゆりの百合子さんじゃないけど」(レズっ娘の意)
桜井優子が驚いて立ち止まる。
「こういうのイヤ?……だったらごめん」
「別に」
桜井優子は薄笑みで応じた。と、そこへ二人の背後から猛然と走ってくる足音。
「ジェラシージェラシー妾(わらわ)はジェラシー……」
蒸気機関車の動作音のように繰り返し、二人の組んだ腕の間に身を投げ込んできたのは前述田島綾。甘い物大好きで応じた体格。ドーンとぶつかって来られると受け止めるのは中々難儀。
それは田島綾の流儀による身体を使ったギャグであった。自分が一番の親友です。理絵子と腕組む相手に嫉妬、の意。
「あっ……」
が、その相手は当然、田島綾の知らない相手。人違い、という焦りの表情一瞬。
馴れ馴れしいに過ぎる初対面に、桜井優子がそれこそ不良の流儀でじろりと見下ろす。しかし、対して田島綾は他の生徒達のようなコソコソした反応は見せなかった。
「てまえ、文芸部腐れ担当、田島綾と申す者。ぶちょーの唇は予約済みですのでご了承を」
言って警官よろしく敬礼。ちなみに彼女の体重は二人の組まれた腕にずっしり。
これに桜井優子は呆れたというか吹っ切れたというか、身体をのけぞらせて笑った。
「あっはっは」
「ぶちょー。こちらの姉者(あねじゃ)、妾に紹介せられ」
「桜井優子さん。あたしが変ならあんたも変だと仰せ」
「では手前優子姉(ねえ)の左腕をめしとり」
3人腕組み。
「女3人で姦しい」
「いや、あんただけだから。私たち寡黙で静謐なオンナ」
「拙者も寡黙で静謐でござる」
「マックスコーヒー飲んでる間だけね」
「お、マックスコーヒーなんてよく知ってるな」
桜井優子は口元を緩めた。同飲料はこの当時、まだ千葉・茨城限定の缶コーヒー。
「自分、ばぁちゃん家(ち)が千葉でさ、東京には無いんだよな」
そこで理絵子と田島綾は声を揃えた。
「優子の秘密、一つ知った」
出会った頃の話/終
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