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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-123-

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14

 
 夜明け前の東天には、二つ先の季節の星座が顔を出す。
 漆黒から群青に変わり始めた空の下、天駆ける船は東京多摩地区の草原に降りた。
 “研究所”を脱出した後、救出した人たちをプロジェクト本部直属の医療機関に預け、次いで、相原を送り返すべくこの草むらに戻って来たのである。
「ミッション・コンプリート」
 草むらにスロープを降ろすなり、レムリアは言った。
 相原が降りると、船体を傾ける。甲板にいた馬が飛び降りる。
 先のスズカである。スズカという響きは日本人であれば鈴鹿山脈を連想するが、どうやら海外レースへ向かう途中船ごと行方不明になった日本の競走馬であるらしい。
 要するに実験用に拉致されたのだ。主旨からして最終的には生化学的な処置を行って日本へ戻し、狂気のテロリズムでも起こそうとしたのかも知れぬ。
 対して、レムリアは馬を日本へ戻すつもりはないと言った。再び相原に要らぬ嫌疑を掛けることになるうえ、大体、レムリアから離れようとしない。懐くというか、慕うというか、頼ると書けば適切か。
「落ち着いたら私の方で何とかするから」
 レムリアは言った。行き場を無くした動物のための牧場とか、更に子ども達が触れあえるようにしたとか、そういう方面の施設団体に幾つかツテがある。
「心配はしてないよ」
 相原は言い、
「で、本当に今回のミッションは終わったんだな?オレを降ろして自分たちだけ更に続けるってことじゃないな」
「うん」
 訊かれてレムリアは答え、彼を見、その姿にうつむいた。
 申し訳ない気持ちが立つ。乗り込むときと同じ寝間着にはんてん……なのであるが、腕とあばらを骨折し、後頭部を幾針か縫い、絆創膏の数は十指を超える。それが今の相原だからだ。
「勲章だらけだな」
 大男アリスタルコスの論評。
「やりつけねえことやったからな。正義の味方って大変だなぁって思ってるトコだよ。あんたらもご苦労なこった」
「ごめんね」
 レムリアは風に髪を揺らしながら、どうにかそれだけ言った。
「何が?」
 相原は軽く笑うだけ。
「だって騙して連れ出したみたいなものでしょ。こんな……ケガだらけ」
「生きてるじゃん」
 
(つづく)

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