アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-126-
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彼が自分を守ろうとし、命がけで行動してくれたのは本当であろう。
その背景が愛情……レムリア ト イウ ムスメ ガ スキ ダ……なら、辻褄が合うが。
実際そうかはどうかは。テレパシーの回答は理解出来るが、自分の心理の方が断を下す水準にない。
ちなみにその旨の手紙をもらったことはあるが、面と向かって言われたのは初めて。そして、自分自身がそういう気持ちを持ったことは過去に無い。
「ホントか?」
相原は誤解のしようが無いほど赤くなって問い返した。
「ホントに」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
レムリアは答えると、約束の印に手を差し出した。
骨張ってクッション感の少ない、しかし熱い男の手。
対し、肌理という漢字の起源が判る、滑らかで繊細な、少しひんやりした感触の小作りの手。
彼のそうした認識は、再会したあの時のまま。
「来られそうになったら、連絡するから。あなたの携帯に、私の番号も入ってるでしょ。ローミングの衛星が私のだから」
「判った。待ってる。でも無理するなよ。あの人達の快復が優先」
「それは勿論。だから気長に」
「……いい笑顔だ。見た者の不安も吹き飛ぶってもんだ。さ、長々引き留めすぎた。もう戻りな」
相原に促され、レムリアは馬を呼んだ。
「おいで、スズカ」
スズカはまるで人語を理解しているかのように彼女に付き従う。ちなみに日本語である。
勿論ベースはテレパシー能力であろうが、馬は実際ある程度人語を解するようである。欧米文化圏がそれこそ海生哺乳類の捕獲を批判する際、知性の差を引き合いに出すわけだが、牛馬に知性が無いなど正当化の言い訳以外の何物でも無いし、そもそもそれで〝殺して食ってもいい〟ことの閾値とするなど、彼らが信奉する絶対神の意志に対する冒涜・思い上がりではないのか。
「相原さん」
今度呼んだのはセレネ。レムリアが特注スロープで馬を甲板に戻す間に草むらへ降り、サクサクと歩いて相原の前へ。
「はい」
「色々ありがとうございました。レムリアはああ言いましたけど、やはりあなたに来て頂いたのは正解でした。あれで何億、何十億の人々が救われたか知れません。救助人数で競争したらあなたが一番ですよ」
(次回・最終回)
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