【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【2】
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この大地、この人達が長く暮らしていると聞くこの土地には、いつから、雨が降っていないのか。
「こっち」
男の子はせんべいをかじりながら、多少のブッシュが見える大地を歩いて行く。その案内ぶりには行き先に“人の死体”があるという緊張感は見られない。
逆に言えば見慣れてしまっているということだろう。日常茶飯事的に人が死ぬ。その環境に育つ子ども達。
「ここ」
男の子は立ち止まり、地面を指さし、残りのせんべいを口の中に放り込んだ。
彼女はその指先に目を向けた。
医療関係に関わっている以上、見ていないことはないのだが、目にすると“ドキリ”とする反応だけは今もって抑えきれない。
人骨。
見る限り地表に転がっているそれは大腿骨。茶褐色に変色している。
そして赤土に埋まり、表面にレリーフ状に浮き出ている頭蓋骨の側面。
殺人事件か、それとも戦闘の犠牲か。
いや…。
彼女は直感を得て大腿骨を手に取る。そして目を閉じる。
見えてくる風景がある。草原。サバンナ。
遠く木の姿も見え、陽炎の中を行き交う野生動物。
遥かな過去の光景だと彼女は判じた。それは、この骨が肉の身の裡にあった時、この人が見ていた光景。
“サイコメトリ”に“ポストコグニション”…彼女が現在ただ今発揮している“能力”は、そうした“超心理学”用語で説明される。
俗に言う超能力、その一種、超常感覚的知覚(ESP)である。
ゆえもあり、彼女の下す、こうした地における1次判断は的確にして正確無比である。加えて病気や怪我に打ちひしがれた人々の目を希望の光へと向けさせ、状況によっては驚異的回復へと導くことすらある。
それは医療団のスタッフには奇跡そのものと映るようだ。故もあっていつしか付いた彼女の呼び名が
ミラクル・プリンセス。
「プリンセス」
背後からの声に彼女は目を開く。
「はい」
「ああ驚いた。何度か呼んだのですが。…それは大腿骨」
(つづく)
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