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2011年10月

【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【2】

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 この大地、この人達が長く暮らしていると聞くこの土地には、いつから、雨が降っていないのか。
「こっち」
 男の子はせんべいをかじりながら、多少のブッシュが見える大地を歩いて行く。その案内ぶりには行き先に“人の死体”があるという緊張感は見られない。
 逆に言えば見慣れてしまっているということだろう。日常茶飯事的に人が死ぬ。その環境に育つ子ども達。
「ここ」
 男の子は立ち止まり、地面を指さし、残りのせんべいを口の中に放り込んだ。
 彼女はその指先に目を向けた。
 医療関係に関わっている以上、見ていないことはないのだが、目にすると“ドキリ”とする反応だけは今もって抑えきれない。
 人骨。
 見る限り地表に転がっているそれは大腿骨。茶褐色に変色している。
 そして赤土に埋まり、表面にレリーフ状に浮き出ている頭蓋骨の側面。
 殺人事件か、それとも戦闘の犠牲か。
 いや…。
 彼女は直感を得て大腿骨を手に取る。そして目を閉じる。
 見えてくる風景がある。草原。サバンナ。
 遠く木の姿も見え、陽炎の中を行き交う野生動物。
 遥かな過去の光景だと彼女は判じた。それは、この骨が肉の身の裡にあった時、この人が見ていた光景。
 “サイコメトリ”に“ポストコグニション”…彼女が現在ただ今発揮している“能力”は、そうした“超心理学”用語で説明される。
 俗に言う超能力、その一種、超常感覚的知覚(ESP)である。
 ゆえもあり、彼女の下す、こうした地における1次判断は的確にして正確無比である。加えて病気や怪我に打ちひしがれた人々の目を希望の光へと向けさせ、状況によっては驚異的回復へと導くことすらある。
 それは医療団のスタッフには奇跡そのものと映るようだ。故もあっていつしか付いた彼女の呼び名が
 ミラクル・プリンセス。
「プリンセス」
 背後からの声に彼女は目を開く。
「はい」
「ああ驚いた。何度か呼んだのですが。…それは大腿骨」
 
(つづく)

10Minutes10Years【後】

「かばうこと無いのよ。年頃の女の子のおヘソ見たり下着見たり写真撮ったり」
 あんたも見とるやないかい。ってか、そう言われた彼女の方が恥ずかしいのと違うか。裁判でのセカンド云々報道で見るが。
 すると、果たして、彼女の顔色が変わった。
「……勝手なこと言わないで下さい!」
 おばさんをジロリ。ホラ見ろ。一方、ブチ上げたおばさんの方も引っ込みが付かないようで。いやいやあんたの思い込みが事の始まりなんだが。認めれば済むんだが。
「何よ味方してあげてるのに。さてはあんた達グルになって……」
 無茶苦茶。大和撫子(ドライフラワー)のデリカシー崩壊は。
「父娘って証拠はどこにあるのよ!」
 ところがどっこい。
 彼女が出した生徒手帳。写真が1枚父娘のスナップ。
 ……オレが写ってる。否否オレそっくり。但し彼女は幼いが。
 彼女の目に涙。
「これでもまだ文句が!?」
 するとおばさん、オレの手を握る力が少し緩んだ。
 機と見て振り払うと、おばさん立つ瀬が無くなったか、うつむいて立ち上がり、荷棚のデパート袋をそそくさ集めて降りていった。
 発車チャイムが鳴ってドアが閉まる。
 彼女は涙目。それはそれで事情がありそう。
「すいません」
 小さな声。
「まぁ、座って。よく見かけるな、とは思ってたよ」
 彼女は頷くと、おばさんが立ったその席に腰を下ろした。
 断っておくがオレは妻子持ちであって、彼女の涙の事情の一助になればとしか思っていない。
「よく似てたもので、つい安心して」
 彼女は言った。
「オレと親父さんがってことかい?」
「そうです。お父さんが帰ってきたみたいで……そのいつも、すいません」
「気にするなよ」
 10年前に亡くなったという親父さんの面影を、10分間見るためだけに。
 
10yesrs10minutes/終

【魔法少女レムリアシリーズ】豊穣なる時の彼方から【1】

←レムリアのお話一覧次→  
 こんな暑い土地にお菓子を持ち出すのは適さない。
 溶けるからだ。砂糖を含んだものなんか特にそう。ただ、お菓子は子ども達に受けが良いし、少ない量でカロリーが多めに取れる。持参できる食品の量に限りがある中で、効率がいいのだ。
 アフリカ南部。内戦で村を破壊された人たちの難民キャンプ。
 テントの中で男の子が囓っているのは日本の“塩せんべい”。溶けてベタベタしないものは何か、を探した結果の試みがこれ。不思議な光景のようだが、アフリカ大陸の東に浮かぶマダガスカルは米の産地。大陸側近隣に米食文化が広がっていたかも知れない、ということからの思いつき。
「Soeur avec des cheveux noirs.」
 たどたどしいフランス語で、男の子に呼ばれて、彼女は振り向く。
「Mangez-vous plus de sucreries je?」
 せんべい片手の彼女を見たならば、日本の中学校の看護師体験学習かと見まがうであろう。彼女は確かに白衣に身を包んでいるが、その顔立ちは“ころん”として、少女マンガのヒロインのようで、ショートカットの髪は黒く、髪と同じく黒き瞳には星空を蔵す。
 しかしここはアフリカ大陸であり、彼女が操ったのはフランス語である。ちなみに、「黒髪のお姉ちゃん」と呼ばれて、「もっと食べるの?」と応じた。
 すると。
「Une personne est morte」
 男の子は淡々とそう言い、せんべいをばりっとかじった。
「Est-ce que vous avez regardé une personne morte?」
 彼女は目を剥いて訊いた。同時に彼女の後方、ノートパソコンを見ながら何事か会話していた白衣の数人から、背の高い男が振り向いた。彼は欧州人種であり、ブロンドの髪に青い瞳。
 以下日本語で記す。
「死体だって?」
「ええ確かに、そう言いました」
 彼女は応じながら立った。身長152センチ。その背と顔立ちは、欧米人主体で構成される国際医療ボランティア“欧州自由意志医療派遣団”の中にあって、ひときわ小柄で幼く見える。しかしそれが逆に、子供たちには親近感を与えるようだ。
「見てきます」
「気をつけて」
 送り出されてテントを出ると、ひたすらな赤土の大地。
 焼け付く日差しと揺らめく陽炎。
 
(つづく)

10Minutes10Years【前】

 俺が座った目の前で、その娘はやにわに制服をたくし上げた。
 いつも同じ電車の同じ場所に乗ってくる、どう見ても女子高校生である。どうやらスカートをミニ仕様に改造する作業らしい。引っ張り上げてベルトで締めて、余った部分はくるくる丸めて上着で隠す。作業の実演は勿論初めて。
 しかしそのミニスカートと言い、覗く男の方が悪いという風潮まかり通っているが、この手の大和撫子のデリカシー崩壊は問題にせずに良いのか。
 さておき困るのは目のやり場。通勤も汽車旅気分の鉄道好きには目線を逸らす本も無い。仕方が無いので携帯電話。ツイッターにレスは無し、ネットの掲示板で電車ネタ探し。
 彼女終わったかい……ところがどっこいバサッと降ってきた彼女の髪の毛。前かがみになって足もとに置いたカバンをゴソゴソ。胸のサイズを誤魔化すために実力以上の乳バンドを付ける場合もと聞くが、結果は予期せぬ眼福ラッキースケベ……それこそネット掲示板のスラングだが、
「あのねぇ髪の毛」
 このタイミングなら、髪が邪魔、で論が立つ。果たして彼女はハッとしたように顔を上げた。
 ところがどっこい。携帯持ったオレの手をむんずと掴む別の手あり。指輪だらけでブレスがじゃらじゃら。荷棚にしこたまデパートの紙袋。
「お嬢さん、この人チカンよ」
「はぁ?」
 どこが、と携帯画面を見せたはいいが、ネット掲示板はアダルト広告の巣窟。
「ほらいやらしい。隠したってダメよ。私見てたんだから」
 何をだ。
 周囲がざわめき、非難の目線とコソコソヒソヒソ。フェミニズムの現代、真偽によらずチカンの嫌疑は人生崩壊。
 落ち着け。
「人聞きの悪い。てなわけで君のコメントをお願いしたいところなんだが」
 彼女はおろおろしている。さもあろう。自分ではトラブルを招いたつもりはないからだ。
「脅しに乗っちゃダメよ。おばさんが証言してあげるから出るとこ出た方がいいわよ」
「名誉毀損って知ってるかい」
 さすがにカチンと来てジロリと目線をやったら、彼女が反応した。
「あの……この人、父です」
 ほえ。
 
【後】

今後の予定

毎度ご覧戴きましてありがとうございます。
さて「アルゴ」第2部は10月16日で完結します。
 
その後ですが。
 
・短編「10Years10Minutes」(10/19開始・毎週水曜更新)
・短編「声は糧、あるときは武器」(↑終了後・更新周期同)
 
・レムリア短編「豊穣なる時の彼方から」(10/22開始・毎週土曜更新)
・同じく「博士と助手(但し魔法使い)と。」(↑終了後・更新周期同)
 
当面、こんな流れになります。よろしくお願いします。

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-127-完結

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「いいえ、まだ合衆国に本ボシ黒幕が残ってます」
 返す相原の手をセレネは繊細な指で握った。相原は少し照れたようだ。
「いつか正式にお礼に伺います。その時はあなたのお好みの場所へお連れいたしましょう。海外……いや、やはり宇宙ですよね。そうですね、太陽系一周ツアーなどいかがですか?」
「それはすごい。いいんですか?」
 褒め言葉をクールにやり過ごしてきた相原が目を瞠った。
 21世紀初頭現在、億円単位の金額で宇宙への〝物見遊山〟は可能ではある。しかし所詮無重力エリアに出る程度。比して映像や望遠鏡でしか見たことのない惑星達をそばに行って観察する。
 相原はふう、と言い、ゆっくりまばたきし。
「でもその前に黒幕を」
 するとセレネは頷き、ニッコリ笑った。
「それで良いと思います。まぁ後々と言うことで。さぁ、私達はこの辺で失礼します」
 繊手が相原の手を離れた。
「はい」
 相原は頷いた。
「じゃあね~」
 甲板の上から手を振るのはレムリア。相原は彼女に手を振って応じ、男達……大男兄弟やドクターとは、目線を交わし、頷き合った。
 スロープが格納され、乗降口が閉まる。
 相原は少々後ろに下がる。暴風が発生して船を浮かす。
 船首が天を向き、高度を取る。
 方向を変え、進路を西へ向ける。空気圧浮上から光子推進に移る。
 加速して行く。船体が白い光に包まれ、やがて流れ星と化す。
 素晴らしい速度で夜空の彼方へと飛び去る。その光輝が見えなくなるまで、相原はじっと、目で追った。
「いいのかな。やべえなオレ」
 
相原補足・アメリカの雑誌「NOW」のスクープ記事より、
     研究所から救出されたイスラエルの男性ヤコブ氏の手記(一部抜粋)
 
……私達はモルヒネで朦朧としていたので詳しいことは憶えていません。
でも、なぜか全員に共通の記憶があるのです。
それは聖人ノアでなく、少女の姿をした天使が空飛ぶ箱船で私達を救い出し、星の海を運んで行く夢のような有様です。
その天使は羽根は持っていません。ただ、黒曜石のように輝く、美しい目をしていました……。
 
アルゴ・ムーンライト・プロジェクト~第2部・了~
 
(レムリアのお話一覧)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-126-

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 彼が自分を守ろうとし、命がけで行動してくれたのは本当であろう。
 その背景が愛情……レムリア ト イウ ムスメ ガ スキ ダ……なら、辻褄が合うが。
 実際そうかはどうかは。テレパシーの回答は理解出来るが、自分の心理の方が断を下す水準にない。
 ちなみにその旨の手紙をもらったことはあるが、面と向かって言われたのは初めて。そして、自分自身がそういう気持ちを持ったことは過去に無い。
「ホントか?」
 相原は誤解のしようが無いほど赤くなって問い返した。
「ホントに」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
 レムリアは答えると、約束の印に手を差し出した。
 骨張ってクッション感の少ない、しかし熱い男の手。
 対し、肌理という漢字の起源が判る、滑らかで繊細な、少しひんやりした感触の小作りの手。
 彼のそうした認識は、再会したあの時のまま。
「来られそうになったら、連絡するから。あなたの携帯に、私の番号も入ってるでしょ。ローミングの衛星が私のだから」
「判った。待ってる。でも無理するなよ。あの人達の快復が優先」
「それは勿論。だから気長に」
「……いい笑顔だ。見た者の不安も吹き飛ぶってもんだ。さ、長々引き留めすぎた。もう戻りな」
 相原に促され、レムリアは馬を呼んだ。
「おいで、スズカ」
 スズカはまるで人語を理解しているかのように彼女に付き従う。ちなみに日本語である。
 勿論ベースはテレパシー能力であろうが、馬は実際ある程度人語を解するようである。欧米文化圏がそれこそ海生哺乳類の捕獲を批判する際、知性の差を引き合いに出すわけだが、牛馬に知性が無いなど正当化の言い訳以外の何物でも無いし、そもそもそれで〝殺して食ってもいい〟ことの閾値とするなど、彼らが信奉する絶対神の意志に対する冒涜・思い上がりではないのか。
「相原さん」
 今度呼んだのはセレネ。レムリアが特注スロープで馬を甲板に戻す間に草むらへ降り、サクサクと歩いて相原の前へ。
「はい」
「色々ありがとうございました。レムリアはああ言いましたけど、やはりあなたに来て頂いたのは正解でした。あれで何億、何十億の人々が救われたか知れません。救助人数で競争したらあなたが一番ですよ」
 
(次回・最終回)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-125-

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 それは半分諦めに近い認識かも知れぬ。この男は何がどうあれ、自分に責任を負わすような言動はするまい。
「ギブアンドテイクじゃ、無いでしょうが」
 相原はそっと言い、続けて。
「お前さんは命がけで守るに足る娘だ。それだけさ」
「そんなの余計に気が引ける。あなたに全部背負い込ませているような気がする」
 レムリアは反射的にそう言った。相原は驚いたように目をまるくした。
「相手を巻き込みたくない。ってそりゃ立派な日本人のメンタリティだぞ」
「だとしたら光栄。知ってる?日本の人たちの道徳心って聖人のそれと同じって評価されてるんだよ。無宗教と言われているのにどうして?ってミステリーなわけ」
「単に汚いことが嫌いなだけさ」
 相原は言い、「そういうことなら」と前置きし、う~んと唸り、首をひねり。
 レムリアに目を戻す。
「こうしよう。願いを一つ聞いてくれ」
「……なに?」
 レムリアはじっと相原を見、戻ってきた目線にドキッとした。
「今度、何かの拍子に日本に来たときでいい、一日俺と付き合え」
 相原は言うと、目線を外して耳の下をポリポリ掻いた。
 その頬が赤らむ。
 背後でアリスタルコスがプッと放屁みたいな音を立てて吹き出した。
「こいつは驚いた」
「黙れ大男」
「通じてないぜメガネのあんちゃん」
 そこでレムリアはある可能性に気付く。
 〝この男の自分に対する態度雰囲気は他の大人たちと明確に異なる〟
 でも、まさか。
 そう思いながら相原を見ていると、相原はため息と共に絆創膏だらけの手を持ち上げ、ネットの掛かった頭をポリポリ掻いた。
「かさぶた痒いの?」
 訊いたら、アリスタルコスが大笑い。
「黙れ偉丈夫」
 相原は咳払いすると、レムリアに顔を近づけ、目を覗き込んだ。
「デートしろって言ってんの。朝のコーヒーから夕食まで。すてきな娘と一日一緒にいたい」
「え?」
 心臓のリズムが少しずれたと自分で判った。
 彼が自分と等身大に見えた気がした。
「いいよ。判った。東京あちこち連れてって」
 レムリアは言うと、くすぐったい気持ちになって笑ってしまった。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-124-

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 相原はそう言うだけ。そして、
「動物救い、世界を救い、君を守った。オレにはそういう自負がある。対価や損失を引き合いに出す必要は無い。こんな大冒険、リアル正義の味方、宇宙へも行ける船、オレの生涯の宝だ。君が実はやっぱり天使で、今すぐ船ごと消えたとしても、オレはオレの中で信じて行く」
 その言葉はいわゆる〝綺麗事〟そのものであり、余りにステレオタイプそのもので、無理して強がっているとまず感じる。しかも、それは安請け合いというより、自分の立場を気遣ってという反応に思えてならない。だから余計に申し訳ないのだ。少なくとも出会った頃の彼のこの手の発言は実際そうだったのであろう。超感覚で探れば真意が判じるのは判っているが、そうやって調べて真意が判るのが怖い。もちろん、今は違うのかも知れないが。
 されど。
「でも、連れ出した私の責任は重大だと思うし」
「最終的に行くと言ったのはオレ自身だぞ。これは人命救助ミッションだろ。オレが断って誰かが……そんな後悔背負って一生を過ごす気はなかったさ。同じダサいなら逃げた負け犬より正義の味方でありたい」
 相原は言ってはんてんの両腕を組み、ニヤッと笑った。
 レムリアは目線を外す。一々嬉しい言葉を言う。喜びたいが本当にいいのか。
「そんな顔すんなって」
 相原は少しかがんで、目の位置をレムリアに合わせた。
「同じ内容で2度悩むな。結論は出した。カワイイ娘に深刻な顔は似合わん。大体その歳から気を遣いすぎたら後世ハゲるぞ。何を今更」
 相原は言い、手のひらでレムリアの頬にそっと触れた。
 ハッ、とする。理由は判らぬ。この男の自分に対する態度雰囲気は他の……クルーも含めた……〝大人〟たちと明確に異なる。
「これで、いい、の?」
「いいよ」
「ホントに?」
「ホントに」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
 一々即答し、都度笑って寄越す。しかし。
 そう、すっきりしない理由。彼にばかり負担を強いて。
「……やっぱり申し訳ないよ。ねえ、あたしどうしたらいい?」
 彼のメガネと瞳に映る、泣きそうな目をした自分。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-123-

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14

 
 夜明け前の東天には、二つ先の季節の星座が顔を出す。
 漆黒から群青に変わり始めた空の下、天駆ける船は東京多摩地区の草原に降りた。
 “研究所”を脱出した後、救出した人たちをプロジェクト本部直属の医療機関に預け、次いで、相原を送り返すべくこの草むらに戻って来たのである。
「ミッション・コンプリート」
 草むらにスロープを降ろすなり、レムリアは言った。
 相原が降りると、船体を傾ける。甲板にいた馬が飛び降りる。
 先のスズカである。スズカという響きは日本人であれば鈴鹿山脈を連想するが、どうやら海外レースへ向かう途中船ごと行方不明になった日本の競走馬であるらしい。
 要するに実験用に拉致されたのだ。主旨からして最終的には生化学的な処置を行って日本へ戻し、狂気のテロリズムでも起こそうとしたのかも知れぬ。
 対して、レムリアは馬を日本へ戻すつもりはないと言った。再び相原に要らぬ嫌疑を掛けることになるうえ、大体、レムリアから離れようとしない。懐くというか、慕うというか、頼ると書けば適切か。
「落ち着いたら私の方で何とかするから」
 レムリアは言った。行き場を無くした動物のための牧場とか、更に子ども達が触れあえるようにしたとか、そういう方面の施設団体に幾つかツテがある。
「心配はしてないよ」
 相原は言い、
「で、本当に今回のミッションは終わったんだな?オレを降ろして自分たちだけ更に続けるってことじゃないな」
「うん」
 訊かれてレムリアは答え、彼を見、その姿にうつむいた。
 申し訳ない気持ちが立つ。乗り込むときと同じ寝間着にはんてん……なのであるが、腕とあばらを骨折し、後頭部を幾針か縫い、絆創膏の数は十指を超える。それが今の相原だからだ。
「勲章だらけだな」
 大男アリスタルコスの論評。
「やりつけねえことやったからな。正義の味方って大変だなぁって思ってるトコだよ。あんたらもご苦労なこった」
「ごめんね」
 レムリアは風に髪を揺らしながら、どうにかそれだけ言った。
「何が?」
 相原は軽く笑うだけ。
「だって騙して連れ出したみたいなものでしょ。こんな……ケガだらけ」
「生きてるじゃん」
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-122-

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 赤一色の世界に鬣(たてがみ)をなびかせ、炎の壁を飛び越える。そして、閉まる途中で故障したと見られるシャッターをくぐると、
 屋外へ出た。
 地上へのスロープ道路。研究所への搬入路であろう。
 その道のそこここには、男どもの身体(ボディ)がゴロゴロしている。厚く武装した傭兵も見えるが、研究所の者らしい白衣もあり。
 馬は障害競技よろしく人体を避け、或いは飛び越え、迫り来る火炎と熱風から逃げ続ける。走り続ける。
 搬入路入り口に鉄の柵。
 馬が跳ぶ。少女の意に従い、蹄の音も高らかに地上へと躍り出る。蹄鉄がコンクリートで火花を放つ。
『どこだ!』
 ドクターシュレーターに相原が応答。
「研究所を左手に見ている。前方が夕焼けの方向。二人で馬に乗ってる」
『馬?ああ見えた。判った』
 地上の傭兵達が発砲してくる。曳光弾がオレンジに光る糸を放ち、衝撃波が身体を揺さぶる。
 船が姿を見せ、傍らに降下してくる。
 暴風は使えない。光子ドライブで超低空を並走し、スロープを伸ばす。先端まで大男達が出てくる。
 捕まえてやるから飛び乗れ、であろう。但し、馬が乗るには余裕が無い。
『飛べ』
「馬は?」
『馬も救うんだろうが』
 つまりうまいこと乗り移れと。
「了解」
 レムリアは笑顔を作ると、何ら躊躇無く、馬を跳躍させた。
 宙にある内に、着地と同時に停止するよう命じる。
 スロープに乗った瞬間、大男達が鎖を捉えて引き据える。
「馬体と二人を確保」
「乗員全員の無事を確認」
「離脱せよ!」
 双子が報告し、相原が叫んだ。
 はみ出たスロープに馬を乗せているため、光圧シールドが使用できず、高度も速度も高く取れない。但し、後ろからは見えないようにはすることはできる。
 船が海面から徐々に徐々に上昇し、自動車ほどの速度で島から離れて行く。
 現地時間17時22分。
 巨大な爆発を振り切る形で、船の如きものが光跡を曳いて空中へと駆け上がる。
 その状況は、幾らかの傭兵たちが目撃し、
 合衆国首都、或る議員の執務室にも、携帯電話で伝えられた。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-121-

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 レムリアはフードを外して顔を見せる。
「助けるから」
 魔法に物を言わせ、繋いでいた鎖から解き放つ。
-もうだめ。逃げて。
 それは、あのクジラからの最期の声。
 爆発音、及びイヤホンにピン。ピン二重。
『爆発と火炎。炎が滝のように流れ込む。直ちに離脱せよ』
 されど退路はない。自分たちが降りてきたその方向から、熱い風が来る。
 欧米の捕鯨は、ランプの油、すなわちクジラの体液が目的であった。
 その油が火を噴いたか、滑り台を炎が洪水となって駆け下りてくる。
 相原は……所長と交戦中。殴りかかる相原と、ジュラルミンケースを盾に防戦一方の所長。
 双子が自分たちを実験室へ放った。そして次に、相原が自分を放った。
 今度は……自分が相原を。
 彼をここから引き抜き、しかも、高速で離脱する。
 方法は……ある。
 レムリアは馬の目を見た。
〈お前名前は〉
〈スズカ〉
〈スズカ、私たちを乗せなさい。地上へ〉
〈お任せを〉
 果たして、相原が見たのは馬上の少女。
「乗って!」
 レムリアは手を伸ばし、相原の背中に言った。
 相原は見返して驚いた。しかし躊躇無く彼女の手をつかみ、ジャンプして馬の腰へ。
 それは、どうにかレムリアの後ろによじ登ったという表現が正しい。彼に乗馬の経験が無いことは訊くまでもない。
「両足で馬の身体を締め付けるように。それで私に抱きついて」
 相原はレムリアの腰に手を添えたが。
「もっとしっかり!リズムに合わせてバランス取って。行きます」
レムリアは馬の横腹を軽く蹴った。
 相原の姿が無様に見えたか、所長が嘲るように笑い、デコボコのジュラルミンケースをトロフィーのように頭上に掲げた。
 その後は、知らない。
「行け!」
 少女が馬を駆る。
炎に包まれ、崩壊し始めた地下構造中を、少女と青年を乗せて馬が走る。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-120-

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 ケースの中身は恐らく死の素。細菌ウィルスのサンプルだろう。このケースこそ、放逐すべき〝P4〟だ。
 真の悪がここにいる。教科書に書かれた過去の侵略・征服・虐殺の首謀者と同様、人類のため、地球のためを思えば、殺してしまうのが正しい対応なのではないかと真剣に思う。殺す権利は何人にもない、というのが人類のコンセンサスだが、そうだと信じるが、
 適用対象外を考えるのはいけないことか。
「こいつ所長だろ」
「ええ」
「動けなくしたのか?」
「ええ」
 相原の問いに頷く。
「殺人に躊躇があるならオレがやるぜ」
 相原はボロボロのプラズマ銃を刀の如く構えた。
「サムライの流儀で首を切り落としてやるぜレイシストさんよ」
 レムリアは思わず相原を見る。
 その驚きが……魔法のロックを解除した。
 ……しまった。
 所長が動き出したと判るや、相原はプラズマ銃で殴りかかった。
 殺人を犯す。
 それは、太古罪悪感のない時代、及び、その価値観を保持する文明圏の場合はともかく、近代文明法治国家の人間にとって、最大の罪であり禁忌。
 その最後の一線を越えさせるものは、狂気か確信犯のいずれか。
 所長が、ストップモーションの掛かっていた2発目を発砲した。
 鉛弾が相原の振り上げたプラズマ銃を直撃し、跳弾となり、ジュラルミンケースを貫通する。
 所長は何事か叫び、ジュラルミンケースに取りすがろうとする。
 レムリアはぐいと腕を引かれる。相原である。レムリアを投げ出すように馬の所へ。
 行けというのである。
 双子が自分たちを実験室へ放った。そして今度は相原が自分を放った。
 お前だけでも。
 レムリアは転びそうになりながら馬の前へ走る。彼女のその姿を見て馬は嘶き、口から泡吹くほど恐怖と拒否を見せ、前脚を振り上げる。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-119-

←前へ次へ→
 
 囚われの動物たち。
「しねーよ。逃がしてやれ。電気ロックは外れてるぜ」
 相原のこの言にレムリアは思わず笑顔を作り、唇から指を離した。
 判ってくれる。この人はまるで年の離れた兄のよう。
「ありがと」
 言って両の手をパチンと鳴らし、二人がかりで動物たちを逃がし始める。
「病原菌というより、神経系の電気制御の実験に使われていたみたい」
 足もとを逃げ去って行く動物たちを見ながら、レムリアは言った。本当は真っ先に確認すべきことだったが、彼らが密閉されていないことと、テレパシーの反応からそう判断。
「これ勝手に逃げてくと見ていいのか?」
 揃って一方向に走る動物たちに相原が言った。
「大丈夫。本能的に逃げる方向を知ってる」
 大型動物も放しに掛かる。
 その時。
「あっ!」
 レムリアが気付いて声を出すより早く、パンという乾いた破裂音がして、相原が背後から突き飛ばされたようになった。
 拳銃で撃たれたのである。防弾なのでケガにはならないが、応じたエネルギでぶん殴られるに等しい。
「(意図したこと形をなさず)」
 発砲者が2発目の引き金を引くより早く、レムリアはそういう意味の言葉を発し、口元に人差し指を当て、次いで真っ直ぐ相手に向けた。
 白一色の放射線防護着の男が、銃を構え凝固している。レムリアの背後では馬が嘶き前足を振り上げて暴れる。
 白衣に対する恐怖がそうさせているのだとレムリアは気付いた。
〈大丈夫だから〉
 メッセージを送るが、死にものぐるいの馬の意識には届いていない。
 呼びかけ続けながら、発砲者を見据える。その顔は件の写真パネルで見覚えがあった。
 写真の真ん中にいた男。所長だ。
 狂気の中枢、の一つ。
 右手の拳銃に対し、左手には大きなジュラルミンケース。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-118-

←前へ次へ→
 
-私に近づかないで。そしてそう、どうせ元に戻らない私よりも、ここに囚われている他の仲間達を。
「他にもクジラが?」
 レムリアはテレパシーで探り、見回す。特に感じないが。
 被験者にされた皆さんは船が救助完了。戻って来いとハンドサイン。
-いいえ。陸の生き物がたくさんいるはずです。気を失っているのではないでしょうか。
 その時。
 スコープに赤文字の警告が出ると同時に、直下から爆発を喰らう。
 更に地下、研究所のエネルギープラントが吹き飛んだのであった。船の攻撃力はまだそこまで及んでいない。納得できるその意図・原因は、何者かによる自爆であった。
 船が防御のため光圧シールドを自動生成。その生成風でレムリアと相原はクジラの身体に押しつけられた。
 生成風とクジラの身体が二人を爆発の熱から隔離した。
 多くの意識が突如感じられるようになる。すなわち何らかの方法で意識が封じられており、今の爆発……電源喪失で解放されたことを意味した。
 テレパシーが捉えたのは、人間ではないパニック心理。
 ……囚われていた多くの陸の生き物、犬猫を始め多種の小動物、牛馬に豚の存在も感じる。彼らの炎に対する恐怖、そして熱さ。
「私に」
 レムリアは一言そう言い、破壊されて丁度滑り台のようになった床を滑り、燃える階下へ向かう。
 船からの一様な驚き。
『戦闘機群がまた来る。急ぎ帰還せよ』
 これには相原が応じる。
「連れてきます。降下して待機願います」
 相原はレムリアを追い、炎の中へダイブした。
 同様に滑り台を降り、炎が壁と化して立つフロアで見たのは、彼を迎える強い目線。
 静かにせよ、のゼスチャーに似て、唇に指を当てた少女。
「私を連れ戻しに?」
 レムリアはパニックの中枢を背にして相原に問うた。多くのガラスケースに鉄格子。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-117-

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「ひひひ……」
 気狂いを思わせる笑い声がレムリアの足元に響いた。
 波に翻弄され、左右に漂う、元医師の身体。
 顔面だけ水上にあって自分を見る目は、最早死神のそれであった。
 狂気の声がかき消される。建物敷地を囲う形で傭兵達が一斉に現れ、発砲して来たのである。対し船がネズミ花火のように回転を始め、FELがレーザマシンガンとして無数の光線を乱舞させ、応射。
 すると、別の傭兵達が、ギロチン鉄扉の部位から次々乱入して来た。
 前にクジラ、後ろに傭兵。
「テメエで逃がしたクジラにテメエが食われて死ぬと」
 相原の自虐的な声があり、巨体が、ブリーチングの要領で、尾びれを地下室に叩き付けた。
 男達と副長セレネと、ベッドの人々が、死を覚悟したその一方、
 レムリアはクジラと目線を合わせた。
 何が起こるか、判った。
 
-ありがとう。
 
 その柔らかな印象を伴う意志の声は、燦然と輝く陽光の強さを持って、周囲からの圧倒的な攻撃に割り込んだ。
 巨大な尾びれが傭兵達を叩き、排除し、そして元医師を波が攫って見えなくする。
 クジラの身体は、レムリア達を覆う巨大な生体の壁となった。
 盾になったのである。但し、クジラ自身は自爆の可能性が潜在する。
 レムリアは二つ指示。まず、ベッドの人々を船に誘導する。船は幾らか残っていたガラス室を押し潰しながら着床。
 そして。
「学っ!」
 レムリアは相原の名を呼んだ。
「クジラの中の回路に干渉して……」
「了解。自爆を抑える」
 よろよろの彼に肩を貸し、クジラの傍らへ。
 しかし。
-お腹の中で何かが割れたわ。何かしらね。
 相原がクジラに触れ、その意味が明らかになる。
 水中から出たために、自重で子宮が圧迫された。元より、海生哺乳類には陸に上がると自重で自らの肺が潰れて窒息死というパターンが多い。
「そんな……」
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-116-

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 跳弾の音があり振り向くと、吹き飛ばされ消失した建物の周囲から、傭兵達が発砲しながら接近してくる。幾らかウェアに着弾すなわち命中する。もちろん防弾なのでケガはしないが、痛いことは痛い(急圧縮されると硬化する素材を使用)。
 そこへ船が降下する。離着陸の爆風を持って傭兵達を吹き飛ばし転倒させ、研究フロアをフタするように船体を降ろす。
 おびえる人々にレムリアは呪文を唱える「(月よ我が身に我が思う映し身を)」。
「ガラスを割りたい」
 人々には、そう訴える天使の姿が見えたはずである。
『振動を加える。伏せさせろ』
〈ガラスを割ります。身を伏せて。ベッドの下へ〉
 ガラスが一瞬にして白く曇ったようになり、中が見えなくなる。船の発した超音波の振動で粉々になったのである。ただ表面にフィルムが貼ってあるのか飛び散ることはない。
 再び銃弾が飛び交う。今度はその海の方からである。小型舟艇が幾つか、ライト輝かせて接近するのが見える。傭兵達が攻撃用高速小型船を駆り、そちらからも入ってきたのである。
 アリスタルコスが船に向かい走るが、間に合うか。架台は甲板中央にあり、そこから舟艇群を狙うのは船体が邪魔で不可能である。架台から外して降りねばならぬ。
 その時、各人のイヤホンに再びピン2連発。
『何か巨大な擾乱が接近……クジラだ』
 シュレーターが、言った。
 黒い怒濤のように海の中から巨体が現れ、そのまま、研究所側のコンクリートの護岸へ乗り上げ、下半身を左右に振り回す。生じた波と図体の力によって舟艇群はあっさりと転覆し、ライトも銃弾もそれきり途絶えた。
 波が研究所に流れ込み、各人の足もとを洗う。ガラスの室はフィルムが剥がれたか、磯の砂城よろしく粉々にくずおれた。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-115-

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 イヤホンにピン2回。ピン2連発は緊急。
『伏せろ!』
 シュレーターから警告が飛んで来、相原が自分の上に被さって爆発音。
 上のフロアが根こそぎ吹き飛んだ。
 唐突に夕暮れ空が出現する。
 その開かれた視界を船が横切ったのは一瞬ではあった。
 が、レムリアの超常の視覚は、高速度カメラの如く、その一瞬を切り取っていた。
 甲板で三脚に似た架台に長い銃器を載せ、銃口の向きを変えようとしている白い服のひと。
 セレネであった。副長セレネが甲板で超銃FELのトリガを握っている。
〈見られてしまいましたね〉
 照れたようにその意志は飛んで来た。
 何のことはない、船はシュレーターの言った通り研究所上空にあり、先に無線で呼ばれた戦闘機5機とドッグファイトをしており、その主火力としてFELを使っていたのだ(故意に姿を見せて狙わせ、その照準情報を逆流して破壊ビームを飛ばす)。
 そしてアビエーション(電子頭脳)を狂わされた一機が研究所に墜落しそうになり、光圧で建物もろとも吹き飛ばしたのである。戦闘機は墜落爆発し、黒煙の遙か向こうをパイロットの物であろう、パラシュートがゆらゆら降りて行く。
「入り口拡張しすぎだぜ」
「とんでもねぇ店だけどな」
 双子が扉の用をなさなくなったそこを乗り越えて入ってきた。……ちなみに二人の会話は2次大戦中のドイツのミサイル〝V2〟がロンドンに着弾した際の有名なジョークに基づく。
 その、入り口の拡張。
 それは、船を直接下ろせる空間を作ると同時に、攻撃者に核心を晒すことにもなった。
 傭兵にせよ戦闘機乗りにせよ、攻撃を回避しただけで、動ける者は動けるからだ。
 幾つかの事象が同時に生じたので順を追って書く。まず、突然の外光を受け、ベッドにあった人々は一様に眩しそうな仕草を見せた。次に、奥深く差し込んだ夕刻の斜光は、研究施設が地下で海と直結していることを明らかにした。それは、あのクジラとのつながりを意識させた。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-114-

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 穴が開き、上層で夥しくこぼれているのだろう、ホルマリンが流れ落ちてくる。
 連射モードなので更に火の玉は走り、3階兵士宿舎フロアの天井をも貫き、外界へ達した。
 開いた穴から一条をなす外の光。
『相原か!』
 シュレーター。つまり船に無線が通じた。ならば。
「地下一階へ船を寄越して下さい。要救助者多数」
 レムリアは言った。
『承ったが少し待て。交戦中だ。ファランクスは?交信できんが』
 それを聞いた相原は閉ざされた鉄扉へ向かって火の玉を放った。
 火の玉は鉄扉に穴を穿った。だが、そこまで。
 銃がピーと音を立てる。燃料電池の水素が尽きた。
 イヤホンがピッと音を立てる。
 通信経路確立。双子の無線機から相原の無線機を経由して船。
『遅いぞ。何があった。連中が突然消えたぞ』
 アリスタルコス。
「消えた?ゾンビは。あんたらは無事か」
『ゾンビならスイッチ切れてくたばった。その直後連中が退散した。博士、何か動きは掴めないか?さすがに何か無線指示が飛んでると思うが』
『判らん。現在本船は戦闘機と交戦中。待避指示じゃないか?』
 博士のマイク越しに船の出す警告音が聞こえる。
『了解。相原、傭兵共はいないから派手に穴あけていいぞ。どうした?』
「電池切れだ。船が降りるまでそこで待ってくれ」
『ひでぇ奴だな』
「慣れないことやってっからよ」
 相原はそう応じた。
「あの、じゃぁ悪いけど……」
 男達の会話にレムリアは割り込むと、ベッドの人たちの移動準備に掛かった。
 とりあえずの問題は各個室のガラスをどうやって開けるか。相原が船長能力で調べて言うには、電気錠・電動制御の類は持っていないというが。
 そもそも扉など無いのだと判るのに時間は要しなかった。最初からガラスで密封されている……〝実験〟が終わると上からホルマリンが流し込まれるのである。破壊に使える銃器はないので船を待つしかない。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-113-

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 途端に元医師は昏倒した。プラズマに撃たれたというより、スイッチが切れたロボットのような反応であった。
 そして、本当にスイッチが切れたのだとレムリアは知った。このコントロールパネルこそ、人体に対する数々の耐えがたい冒涜行為の中枢。
 それが証拠にベッドの人々が次々動き出す。神経系に電気的に干渉し、身体が動かせないようにしていたのだ。
 一方、鉄扉の向こうでも変化が起きたと知れる。恐らくはゾンビ達の制御も解け、一様に単なる死体に戻ったに相違ない。イヤホンにピン。
『ありがとよ』
 一方、元医師の方は。
 相原が銃口を向け、二人は人形の如く転がっている元医師に近づく。勿論発砲ロックがかかるのは承知の上。脅しだ。しかし、銃の扱いにすっかり手慣れた彼の姿はどうだ。力強くもあり、申し訳なくもあり。
 家族のために戦うことこそ、男の覚醒と聞くが。
 対し、ニヤニヤ笑うばかりの元医師の顔。被験者と逆に首から下が動かせなくなったと見られる。それはあたかも、首から上だけ本物を据えた人形のようなグロテスク。
 何事か口を動かすが、言葉にならぬ。
「言いたかないが、このセンセイもゾンビかい?」
 相原に問われて思考が動き、事前察知できなかった理由を得る。
「いいえ……麻薬で本来の人格を消されてしまったようです。その後、人工知能をロボットに持たせる要領で別の人格を書き込んだのでしょう。要するに生体アンドロイド」
 言ってて悲しくなってくる。もうこの医師は元に戻らないことが明らかだからだ。
 この〝人格〟は電気により作られ、コントロールされる言わば幻影。無くなれば、廃人。
「判った。それ以上言うな。銃の電力が残り少ないんだが、まずこの人達は助けるんだな?」
「ええ」
 相原はそれを聞くと、火の玉を真上に向けて放った。
 
(つづく)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部-112-

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 彼らを支配するのは業苦と恐怖。気絶したくても出来ない。
〈助けに来ました〉
 テレパシーを使う。形而上の事象と判じたようで、どよめきが波紋のように広がり、業苦に僅かな期待が宿る。
 足音がし、見ると、奥で立ち動く白衣の男があった。
 医療機器のコントロールパネルと思しき、しかし、それにしては大規模な機械を操作している。粒子線ガン治療器など、豪壮な仕立ての医療機器を幾つか知っているが、それらと同等の規模であり、そしてここにある以上、人体に不当な干渉を及ぼす機械であることは確かだ。ただ、バイオハザード系の装置ではないらしい。現に医師は特段防護服を着ているわけではなく、自分たちのウェアもアラームを発しない。以上、自分が思った“個々に隔離”の部分。
 ウェアのフードを取ってみる。医師の目が自分を捉える。
 その目。
「おや」
 医師は、あたかも職場に彼女がひょっこり現れたときのように、作業を続けながら応じた。
 一方で、遠く聞こえ来る跳弾や各種警報の音を意に介する風はない。
 冷静すぎる異常。
「久しぶりだね。君が来るのを待っていたよ」
 聞き覚えのある声音。
 そして。
「ここだ。来てくれ」
 何かに報告するように言い、ニヤッと笑った。
 意図が読み取れる。通常、テレパシーならその位事前に察知できるはずだが、今の瞬間は、相手が意図を明確にして初めて判った。
 その理由を考えるより先に、裏切られた絶望感と、そして、得体の知れぬ化け物にされた悲しみが、悲鳴を解き放つ。
 それは同時に、絶対的使命を彼女に抱かせた。医師、否、元医師にコンソールを触らせてはならない。
 伝わったのか、独自の判断か判らぬが、傷だらけの男の元から火の玉が走った。コンソールを撃ち、溶解に至らしめる。
 
(つづく)

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